777 星暦557年 藤の月 27日 更に方向転換(2)
「取り敢えずまずは単純に風を吹かせるのがこれ」
弱風の魔術回路ぺらッとしたシャツの裾に縫い付けてみた。
胸元と背中が特に汗をかくと言うのがケレナの苦情だったので、取り敢えず前と後ろだけ風が出る様にしてある。
俺なんかだとズボンのウエスト周りとかに汗をかく事はあるが、背中とか胸元が特に汗ばむのって女性の体の構造が男と違うからかね?
胸元は膨らんでいるから汗をかきやすいのかも知れないが、背中まで違うとは不思議なもんだ。
「まずはシャツだけ着てみるね」
シャルロがシャツを羽織り、ボタンを留めてから魔術回路に魔力を通す。
ぶわっと風が吹きはじめ、シャルロの髪の毛が逆立った斬新な感じになった。
「・・・夜会でその髪型は不味くね?」
女性の長い髪だったら結ってあるしアクセサリーとかで重くなっているしで風ぐらいでは何ともならないかもだが。
「う~ん、肩に縫い付けると首周りがすれそうなんだけど、下向きの方が良いかなぁ」
シャルロが首をぐるりと回してみるが、首の角度を変えても逆立った髪型は変わらないな。
「考えてみたらそれってズボンの中に入れてベルトを締めたらどうなるんだ?」
女性の場合もウエスト周りはそれなりにきゅっと締めているスタイルが多い。
まあ、ふくよかなタイプとか妊婦はそこら辺を誤魔化すためにゆったりしたのもあるが・・・風を通したらゆったりしているのが更に太く見えるんじゃないかね?
ズボンの中にシャツの裾を入れ、ボタンとベルトを締めたら突然ズボンが太くなった。
「あれ?足の方に大部分の風が流れてる感じだ」
別に実際にズボンの太さが変わった訳ではないのだが、空気で目一杯膨らむ形になるので突然足がパンパンになったように見えた。
逆に髪の毛を揺らす風は消えている。明らかに風が下半身に流れてるな。
「・・・効果も半減以下だろうが、見た目的にも微妙だな。
まあ、女性のスカートは元々ふんわり膨らますのがお洒落らしいから構わないかも知れないが・・・ちなみに少しは背中とか胸元に風が来ているのか?」
アレクが尋ねる。
先ほどに比べると髪型が普通に落ち着いているが、これってちゃんと上半身の汗が乾く感じになるのかね?
「ちょろちょろっと空気が動いている感じはするけどさっきに比べると段違いだね。
これじゃああまり汗が乾かないかも?」
ぼさぼさになった髪の毛を指で適当に整えながらシャルロが答える。
「上着も着て、暖炉の傍にしばらく立ってみたらどうだ?」
それでも暑く感じないならちょっと走ってきて貰う必要があるが。
「・・・あらら。
足が涼しい感じだから少しはましだけど、上半身は全然涼しい感じがしないね」
暫く暖炉の前に立っていたシャルロだが、やがて諦めて作業机の方に戻ってきながら感想を言った。
「髪の毛がばさばさになっても良い家の中で真夏に着る室内着としてだったら良いかも知れないが、夜会とかで使うのは無理そうだな。
次はじゃあ、銅線を前と後ろに一本ずつ通してその周辺だけでも乾かすようにしたらどうなるかだな」
一本だったら体の窪み部分に嵌る感じで極端に擦れないとは思うが、範囲指定を銅線上とすることになるからどの程度効果があるか微妙な気もするんだよなぁ。
でもまあ、明らかに普通に風をシャツの中に吹かせるだけのはきっちりとした服には使えない。
清浄化の魔術回路で銅線上だけ汗を除去する形にしたらどう効果があるだろうか。
ある意味銅線付近の布が汗を吸って常時除去している形になるので、もしかしたらそれなりに効果はあるかも知れないが・・・即効性は微妙かも知れない。
別のシャツに銅線と魔術回路を縫い付けて準備する。
今回の実験台は俺になった。
一番夜会とかパーティとかに縁がない人間なんだけどなぁ。
でも考えてみたら、清浄化で汗を乾かす代わりに温める効果の魔術回路を付けたら寒い場所でこっそり待機する時なんかに良いかも?
以前造って軍や商会に売っている防寒・防御結界はそれなりに暖かいがあれは室内で使うのは想定していないんだよなぁ。
結界に触れると弾かれる感覚があるから、人込みで使うとかなり迷惑だ。
外ですれ違う程度だったら相手にぶつかったかと思う程度で済むが、流石にパーティとか役所内とかであれを使って人を弾いていたら迷惑過ぎるだろう。
俺って暑いのより寒いのの方が嫌いだから、是非ともこれの後に開発する様に推していこう。
風を先に試しましたが、色々問題発覚w