776 星暦557年 藤の月 26日 更に方向転換
「金糸を使ったドレスってしっかりした絹とかの生地に刺繍と交えて使うからがさがさ固いんだと思っていたけど、やはり金属の糸って固いね~」
アレクが実家経由で入手した金糸を適当に縫い付けた布を手で揉んだシャルロが感想を述べた。
「これを肌着にしたら痛すぎるだろ」
先ほど少し肌にこすりつけてみたら、赤くなったので直ぐに止めたのだ。
ある意味、ちょっとした緩めのヤスリをこすりつけるような感触だった。
軽く上から触れる程度なら良いが、ガッツリ体に締め付ける形で固定した状態で体の動きに合わせて擦れたりしたら、下手をしたら流血沙汰になりそうだ。
「髪の毛だったらそれなりに強いし魔力も良く通すし金糸よりは柔らかいけど・・・それでもチクチクしそうだし、何よりも糸に紡いだのを売っていないよねぇ」
他に何か魔術回路を造れる素材が無いかと考えながら、シャルロが部屋の中をぼんやりと見回す。
「絹糸に何かの素材を浸してみるとか?
まあ、生き物由来の糸形状の物というなら細い毛糸だって似た様な物かもだが」
アレクがため息を吐きながら言う。
「いやいや、毛糸は肌に直接つけたりしたらチクチクするよ!
まだ絹糸の方がマシだろうけどあれもそこまで強くはないからねぇ」
シャルロがアレクのアイディアに反対する。
毛糸ねぇ。
確かに買いたての新しいのはちょっとチクチクするかな?
ボロボロの古い奴だとそれなりに肌触りも柔らかくなるが、貴族が着るような高級肌着に古い毛糸を使う訳にもいかないだろうな。
直ぐに切れそうな気もするし。
「なんかこう、魔術効果を肌の上に伝える術って無いかな?
肌の上を術が伝わるように出来るんだったらペンダントかアンクレットみたいな形で魔術回路を体に着けるのも可能かも?」
シャルロが提案する。
アンクレット??
足首に着ける装飾品だったら目立たないかも知れないが、ちょっと遠すぎるだろ。
それだったらウエスト周りにリボンみたいな感じで内側に巻く方がマシじゃないか?
いや、女性だったらコルセットで腹回りもがっちり締められているから、ガーターベルトっぽいのが良いかな?
まあ、肝心の肌に沿って起動する術なんて言うのがあればだが。
「肌沿い、ねぇ。
手足を麻痺させる拘束用の魔具や魔力の通りを阻害する魔具は確かあったが、あれらは肌ではなく神経とか血管に作用しているのではないかと言う考察だったと思う。
それよりは細い銅線でも一本、肌着の上胸の辺から腰辺りまで通してその銅線の周囲に術を展開する形にするのはどうだ?
魔術回路じゃなくって術の経路っていうだけだったら一本だけ線を通すだけで良いから、極端には痛くないかも?」
まあ、そうすると乾く範囲が極めて限られてしまうかもだが。
背中側も汗をかくなら前と後ろに2本かな?
運動しての汗ならまだしも、ドレスで夜会に出た際の汗をかく箇所なんて知らん。
「拘束用の魔具?
なんか物騒な物だね。そんなの魔術院の特許関連の書庫にあったっけ?」
シャルロが軽く首を傾げて聞いてきた。
「・・・学生時代に忍び込んだ魔術学院の図書室の禁書部屋にあったのかも? 」
一時期色々と好奇心が疼いた時には魔術院の禁書部屋にも忍び込んだこともあるのだが、それは言わない方が良いだろう。
考えてみたら若い魔術師の卵があつまるような魔術学院に、禁書なんぞ例え隠し部屋であっても置いていたら危ないだろうに。
なんだって処分するなり魔術院に預けるなりしなかったのかね?
まあ、本当にヤバそうなのは確かに魔術院の方に隠されていた気がするが。
若気の至り程度であの学院長が封じた部屋に忍び込める卵はあまりいないのかな?
「まあ、それはさておき。
ちょっと肌着に細い銅線を垂らしてその周辺を指定する形で清浄化の術を起動させたらどの程度汗が乾くのか、実験してみようか」
アレクが提案する。
「単純に胸元とかお腹周りに風を流す術も試してみない?
コルセットの下は無理だけど、上に風を通す形にしたら肌着は乾くかも?」
シャルロが更に付け加える。
「ケレナの肌着で両方やってみて、上にドレスを着て適当に動き回って汗をかいたらどうなるか確認したらどうだ?
俺たちが実験して上手くいっても、女性用のドレスで上手くいかなかったら意味がないぜ」
まあ、夏の暑い時にシャツを乾かす方法としては悪くないかもだが。
でもそれだったら乾かすんじゃなくて冷やす方が良いかね?
凍らせる術を使うとヤバいかもだが、丁度いいぐらいに冷える術ってあったっけ?
服を直接冷やせたら夏場は良さそうですよねぇ。
真冬の時期にはテストすら厳しいですけどw