077 星暦550年 桃の月 6日 試運転
アイディアを現実に転換させる過程では、時々思いがけない障害がある。
ま、それを解決していくのも楽しいんだけどね。
◆◆◆
「さて、繋げてみるか」
本体とガラスケースと術回路。
全部出来あがったのでそれを組み込む段階になった。
本体の各面の内側に術回路を埋め込む。
その術回路を伸ばし、前の扉へスイッチの形をつけて繋げる。
ここまでは簡単にいった。次が魔石の蓄積状態を知らせる術回路の設置だ。
「とりあえず、爪の厚さ程離して設置してみよう」
アレクがいいながら、魔石のそばに術回路をつけてみた。
先に準備しておいた、魔力一杯になった魔石を凍結庫に嵌めると・・・殆ど光らない。
「普通の状態のを嵌めるとどうなる?」
一杯になった状態でこれだったら、普通の状態だったら・・・反応ないだろうけど。
「・・・ダメだね」
案の定光らない。そんな術回路を見ながらシャルロがため息をついた。
「もう少し近づけるぞ。」
爪一枚ってかなり薄いんだが・・・限りなく触っているに近い状態にしてみる。
今度は光った。
だが、明るすぎて、満杯状態の魔石と普通な状態の魔石であまり違いが無い。
「今度は近すぎるな」
アレクが眉をひそめた。
「これじゃあ、ドアに埋め込んでも使っている間に術回路か魔石がずれちゃって魔石の状態を示すという機能しなくなりそうだね」
魔力に影響を与えない何か薄いモノを間に挟んで、それで距離を制御した方がいいだろう。
で、何が薄くて魔力に影響を与えないか。
一番楽なのは銅線なんだが・・・あれは魔力を伝えちゃうからなぁ。
髪の毛っていうのはちょっと不気味だし時間の経過とともに脆くなる。
となると・・・。
「布なんてどうかな?絹か麻で丁度いいぐらいの厚さが得られるんじゃない?」
俺の提案に二人が頷いた。
「じゃあ、今晩どこかの店舗から何タイプかの厚さの端切れを貰ってきておくよ。
この魔石モニターは明日終わらせるとしよう」
アレクが提案する。
「とりあえず、本体がちゃんと機能することを確認したら僕たちのリサーチをしよう!」
保存庫・凍結庫が完成した暁には、シャルロのところに大量に買いだめされるであろう冷菓子を夏になったらたからせて貰おう。
これだけ熱意があふれるなら、きっと大量に菓子を買いだめるに違いない。(笑)
凍結庫と火器を繋ぐのはあっという間に終わった。
体積が大きめなものを入れて凍結庫が問題なくエネルギーを火器用の魔石に蓄積させるのかを確かめる為に、やかん一杯の水を沸かして中に入れてみた。
あっという間に凍結庫の魔石が消費され、代わりに火器の魔石にエネルギーが蓄積されていく。
「・・・考えてみたらさ、停止の術に効率的に使えるように魔力の蓄積・変換を研究するんだったら、熱抜きの術への蓄積・変換を研究したらうまくいけば自分のエネルギーで半永久的に動き続ける凍結庫が出来あがらない?」
ふと、凄い勢いで残量が減っていく凍結庫の魔石を見ながら二人に尋ねた。
「まあ、ね。
でも、僕は長期間魔石補充しなくても動く凍結庫よりも、長い間魔石補充をしなくてすむ上に中のモノを冷やせる保存庫が欲しい!」
シャルロがきっぱりと言い切る。
そうでっか。
ま、どうせ趣味の研究だし、俺も考えてみたら単にずっと動く凍結庫よりも中がほんのり冷える保存庫が欲しいかも。
火器の魔石が一杯になって安全装置が動く前に凍結庫の魔石が切れた。
ちっ。
しょうがないので3人ですっからかんになってしまった魔石に魔力を込めてテストを再開する。
・・・ちゃんと安全装置が機能した。
スイッチの選び方で中の魔術のパワーも変化したし。
よし。これで明日は研究に集中できるぞ!
ああ、冷蔵庫もどきを作っている話を書いていたら、シュークリームが無性に食べたくなりました・・・。
ちなみに、『試運転』というよりは『テスト・ラン』というつもりなんですが、日本語で普通に『テスト・ラン』って言い方しましたっけ?