753 星暦556年 桃の月 20日 年末の予定(11)
「久しぶりだな」
書斎っぽい部屋で机に向かっているゼブに挨拶を返そうとして、二度見した。
頭がピンクになっている。
いや、頭と言うか精神というか・・・要は洗脳状態にある。
それ程濃厚ではないが・・・呪具の販売を取り仕切る側の裏社会の顔役が洗脳されてちゃ駄目だろう!!
「年末前の休みにちょっと休暇でね。
ついでに参考までに聞きたいこともあったし」
一応、非接触かつ目を合わせなくても掛けられる呪具があったら困ると思って解呪用の魔具を常時身に着けているが・・・それに魔力を追加で注ぎ込みながら近づいても特にピンクに変化は無かった。
考えてみたら、解呪の魔具って呪具の魔具が改造されるたびに改修していくんだっけ??
もしかして、それのタイミングが悪いと解呪の魔具を常備していても掛かっちまうのか??
どうするかねぇ。
裏の顔役とかだって、理不尽なことや馬鹿なことをやったら殺されるって言うチェック機能の下に存在する仕組みだ。
その顔役を人知れず洗脳して操っている人間がいると、アホをやっても殺されるのは顔役だから操っているやつは命の危険を気にせずに色々と出来るから、良くないんだが・・・。
これって悪魔の洗脳の緩い状態だと考えて、清早に洗い流してもらえないかな?
『この洗脳状態を解除できるか?』
一人で出かけるというのでついてきた清早に声を出さずに尋ねる。
『おう。
今やろうか?』
さっそくゼブに近づいた清早を慌てて止める。
『いや、書類が濡れてダメになったら不味いから、ちょっと庭に出て貰おう』
折角一軒家の1階にいるんだ。
少し外に出ても良いだろう。
・・・っていうか、考えてみたらあっさり庭に出られるってことは襲撃とかもしやすいって事なんじゃないかね?
地下室よりも逃げやすいかも知れないが、襲撃しやすいっていうのはそれなりに問題だと思うんだが・・・どうなんだろ?
「ちょっと見せたい物があるんで、一瞬で良いから庭に出てくれないか?」
ゼブに声をかける。
『なんでそんなことをしなくちゃならないんだ』と言いたげな顔を一瞬したが、いい加減書類から離れたかったのかあっさり立ち上がって掃き出し窓の方へゼブが向かう。
「で?
何を見せてくれるんだ?」
庭に出て振り返ったゼブが尋ねた。
「これだ」
ざばぁぁぁぁ!!
清早が大量の水を生成してゼブに掛け流す。
「ぶべぁぁぁ!」
驚いて水をちょっと飲んだのか、変な声を上げていたがゼブのピンク色が消えた。
「何をしやがる!!」
傍にいた護衛役のごついのがこちらに殴りかかってきたので避けながら声を上げる。
「呪具で洗脳されていたんだよ!
これでさっぱりしただろ?
清早、乾かしてやってくれ」
解呪は有難がるだろうがびしょ濡れな状態では有難い思いも薄れるだろうと清早に水をどけるよう頼む。
『ほいほ~い』
清早の返事と共に、庭とゼブの周囲の水が消えた。
「やめろ」
俺に避けられて今度はナイフを取り出した護衛役にゼブが声をかける。
「俺の持っている解呪用の魔具では変化が無かったから、精霊水で洗ってもらったんだ。
悪魔の洗脳でも洗い流せる強力なやつだから、すっきりしただろ?」
護衛からちょっと距離を取りながらゼブに説明する。
俺は肉体派じゃないんだ。近距離戦闘は得意じゃない。
まあ、遠距離戦闘にもそれ程向いていないし、斥候役ってところだな。
「おう、効いたぜ。
上の人間とテスト人員用の解呪用魔具は出力を上げて多少の呪具の変化にも対応できるようになっているんだが、今回はちょっとダメだったようだ。
助かった、借り一つだな」
ため息をつきながらゼブが部屋に戻る。
「じゃあ、借りを返すってことで呪具を使っているのが分かる魔具とかがあるか、教えてくれないか?
あと、こっちの大陸でごく普通に使われているヤバい物で今後アファル王国に密輸入されちまいそうな物に何があるかも一応教えて欲しいんだが」
違法品の密輸出入は裏社会の収益源の一つだから、普通だったら聞いても教えてなんぞくれない。
だが、今回は借り一つってことになったんで対応してくれると嬉しいところだが。
まあ、ゼブの言葉だけを鵜呑みにするのではなくそれなりに街中や蚤市でも目を光らせて何か役に立ちそうな魔具があるかも探すつもりだが。
「まだアファル王国への直接販路はないんだが・・・ザルガ共和国への販売情報で参考になるか?」
ちょっと考えてからゼブが答えた。
「そうだな。
それで多分何とかなると・・・期待してる」
まあ、こっちでは普通の品だったりしたら密輸品ですらない可能性もあるが。
解呪用魔具を確認する人間が新しい呪具に引っ掛かるのはちょくちょくありますが、トップが掛かるのは珍しいので誰が後ろにいたのか、ゼブはこれから組織内の調査開始ですw