751 星暦556年 桃の月 20日 年末の予定(9)
ジルダスの蚤市をふらふらと歩き回りながらシェイラが時折立ち止まり、売り出してあるものを眺める。
「斬新な贋作ねぇ~」
今回のは・・・何やら壺っぽいが割れているのを継ぎ足している。
「割れて罅が入った壺の偽物を態々造るのか?」
てっきり単に割れたのを修理して売りに出しているのだと思っていたが、確かに随分と高い値段を考えると何かの贋作のつもりなのか。
「幾つかの文明では大切に使ってきた陶器や磁器が割れた時に、それを修復してその修復跡も器の個性として愛でる慣習があったのよ。
ある意味偶然の産物だから非常に数が限られて、良い物は物凄く高くなるんだけど・・・流石に新しい陶器を割って継ぎ接ぎされてもねぇ」
軽く笑いながらシェイラが答える。
「つうか、水汲み用の壺だろ、これ?
割れて修復しても水が漏れるんじゃないか?」
クッキーを入れておく陶器ぐらいだったら罅を修復しても使えなくはないかも知れないが、どう考えても漏れてしまう水汲み用の壺なんて意味がない。
それとも陶器の継ぎ足し素材というのは防水性も高いのか?
「う~ん、暑くて乾燥した地域だと態と水漏れする目の荒い陶器を作って、その滲み出た水が乾燥する際の熱の発散で中に入れたもう一つの壺の中身を冷やすなんてこともあるんだけど・・・これは両方の話をごっちゃにして適当に造った贋作・・・なのかしら?」
微妙に自信が無さげにシェイラが粗悪そうな壺を覗き込みながら言った。
「どう考えても、使い物にならないだろ、これ」
それに冷却用の魔具がこの国にもアファル王国にも普通にあるのだ。
中途半端な水漏れ機能付き壺なんて要らないだろう。
まあ、旅行に行く際にでも植木の水遣り用に使えるかも知れないが・・・このサイズの壺を植木鉢の上に安置するのは難しいだろう。
「ふふ、だから斬新って言ったのよ。
実用品ではなく骨董品という名目で誰かを騙そうとしているんだろうけど・・・まあ、一人この値段で騙せたらかなりの利益が出るからそれでいいのかも?」
贋作版一攫千金な商売と言ったところか。
その後も色々と見て回るが、どうやら圧倒的に偽物の方が多いようだ。
「なんか、偽物が多いわりに楽しそうだな?」
夕方になってきたので街に戻る方向へ進みながらシェイラに尋ねる。
本物っぽい骨董品や遺物だったらじっくり真剣にあらゆる角度から見つめて吟味するので、気軽に手に取って楽し気に眺めるその他と明らかに態度が違う。
50個近くの商品をシェイラが眺めたり手に取ったりしたが、本物らしき反応だったのは4つだけだった。
10個に1個以下という確率だったら俺ならうんざりするのだが・・・幸いにもシェイラは楽しそうだった。
「中々よく考えて作られているのよね。
ある意味、何の贋作のつもりなのかを推測して、どういう考えに基づいて手元にある贋作に辿り着いたのかを考えるのって面白いし、遺跡にあるイマイチ使い道が分からない物の使用用途に閃きを感じたりするし。
悪くないわ!」
まあ、楽しんでくれてよかった。
折角滅多にない一緒の時間に誘ったのに、面白くないのを無理に隠されても切ない。
俺にしても街中の店を回るよりは蚤市でごっちゃになっている色んな魔具を視て回る方がやりがいがあるし。
折角の休暇なのだ。
二人とも楽しめて、良かった。
ちょっとまだ早かったが、昼寝を挟んだにしても1日が長くてシェイラにも疲れが見えてきたので、今日は適当な屋台で夜食を買い、それをつまみながら宿に帰った。
「ちょっと顔役のおっさんに挨拶に行って来るから、今日買った物を整理するなり、疲れたなら先に寝るなりしていてくれるか?」
部屋で荷物を降ろしながらシェイラに尋ねる。
何故か、本物じゃなくって贋作を幾つか買ってたんだよなぁ。
まあ、シェイラが真剣に見ていた本物は明らかに本物って分かる代物だったせいで目が飛び出る程高かったから気軽に買えなかったんだろうけど、笑っていた贋作を幾つか買ったのは・・・土産用かね?
贋作の良さが普通の人に通じるかは不明だが、大丈夫なんだろうか?
まあ、骨董品と言わずに東大陸の蚤市の土産と言えば胡散臭さも楽しさの一部になるのかも知れない。
「分かった、ちょっと荷物を整理してそれが終わっても帰って来なかったら寝てるかも。
気を付けてね~」
あっさり頷きながらシェイラは入手した贋作を楽し気に手に取っていた。
折角2人で旅行に来たのに自分を放ってどこに行くの?!って詰られないのは助かるが・・・全然気にされないのもちょっと寂しいかも?
インドや中国に旅行に行った際の怪しげな陶器のお土産の異世界版w