748 星暦556年 桃の月 20日 年末の予定(6)
「どう思う?」
シェイラが何やら薄い生地の服を体に当てて聞いてくる。
俺に服の良し悪しなんて聞くなよ、と思うのだがここで正直に『(どうでも)良いんじゃない?』と答えると微妙に不満そうな顔をされることは既に学んだ。
アレクに聞いたところ、『微妙に不満』で済むなら御の字という事らしい。
女性と買い物に行く時はその女性と同行者もしくは店の人間との会話にそれとなく聞き耳を立て、相手が聞きたい意見を推測しておいて聞かれたらそれを返すのが正解らしい。
とは言え。
店の人間に色々と説明されているシェイラとのやり取りに耳を澄ませても、どっち方向の答えが欲しいのかなんて分からないんだよなぁ。
という事で、取り敢えず自分の感想を返すことにしている。
俺がぎょっとするような酷い服は最初から考慮されることが無いので、大して思うことが無いから『感想』その物をひねり出すのがかなり大変なのだが。
取り敢えず・・・。
「その服って中が透けて見えない?
かなり持っている生地が薄く見えるんだけど」
手に持っているだけなのでイマイチ服の形は分からないが、端の生地は向う側が透けて見えてるぞ?
「ああ、体の部分には別にこちらの下服を着るのよ。これで見えちゃいけない部分は隠せるけど、体全体にそれなりに風が通って涼しくなるらしいわ」
服の真ん中部分に隠れていた濃い灰色な膝上丈の袖無しワンピースみたいのをシェイラが持ち上げて見せる。
なるほど。
二重な服って暑いんじゃないかと思うが、風通しの良い薄い生地二枚だったら悪くないのかな?
中が濃い目の色の生地だと元々陰になっているから更に中が見えにくいし。
腕や足の先が透けて見えるのはそれはそれで涼しそうだし色っぽい。
透かして攻めるなんて、面白いな。
とは言え、俺に服はあまり関係ないけど。
「だったら中々良いんじゃないか?
色も面白いし」
あまりアファル王国では見ない鮮やかな青と白の色合いで、新鮮な感じだ。
染料がこっちとあっちで違うんかね?
それとも使っている生地の染まりやすさかな?
あの鮮やかな青だったら貴族や金持ちが欲しがりそうだから、染料だけの問題だったら輸入すれば良いだろう。
アファル王国で使う服に生地に使いにくいんだったら、一番外の上着なりショールなりだけこっちの国で使用されている生地の物にすれば良いんじゃないかと言う気もする。
そこら辺は今度アレクやシャルロの家族が来たら考えるかな?
やはり海外の輸入業務とかに関わるのは男が多いから、お洒落系の輸入品って後回しになるんだろうな。
そう考えると社交シーズンが終わる前にアレク達が一度こっちに来るのも悪くないんじゃないかね?
暑くなる夏よりも冬の方が重ね着はしやすい。
染料よりも、ジルダスの生地を輸入してアファル王国風の洋服に仕立てればそれはそれで良いかも知れない。
それとも香辛料と同じで生地とかも湿気る船での運搬には向いていないのかね?
「そう、見慣れない色合いで面白いわよね。
あと2、3着買って宿に行きましょう」
シェイラが店の人間に持っていた服をカウンターに置いておくよう指示し、更に店の中を探し始めた。
おっと。
もしかしたらアレク達が来る前にシェイラがオスレイダ商会に言ってジルダスの生地の輸入を始めるかな?
もしくはどっかの業者に輸入をそそのかして、シェイラが運営に手を貸している仕立て屋に使わせるとか。
まあ、シェフィート商会はそれなりに色々と儲けているんだし、ジルダスとの伝手もそれなりにあるんだ。
シェイラに出遅れて儲け損ねても、それは文句を言われる謂れはないな。
シェイラとこっちに年末に遊びに来るってことは言ってあるし。
・・・一応、服を買ったってことも言及しておこう。
シェイラにも来年アレクやシャルロの家族とこっちに遊びに来るから一緒にどうかって誘っておけば情報開示的にも大丈夫だろう。
シェイラもアレクもそれ程本気じゃないとは思うが、儲ける機会を逃すと微妙に不機嫌になるからなぁ。
板挟みにならない様に予防線は張らないと。