744 星暦556年 桃の月 11日 年末の予定(2)
「俺は20日から数日東大陸のジルダスにシェイラと遊びに行く予定なんだ。
何かお土産希望があったら言ってくれ」
ノンビリと朝食後のお茶を工房で飲みながら年末の予定を話し合うなかで、ついでに土産希望も聞いておくことにした。
休息日前に軍部の依頼が全部終わったところでこれからの予定をちょろっと話し合ったが、細かい事はまだ決まっていなかった。まだ年末に向けてそこまでアレクが忙しい訳でもないので休息日に家族その他と話し合った結果を踏まえて今日になってまったり詳細を話し合っているのだ。
「へぇ?
シェイラも行くんだ?」
シャルロが興味深げに聞き返してきた。
「おう。
年初は歴史学会の会議とかで色々予定が入っているらしいが、年末は年間報告書さえ終えれば後は特にやらなきゃいけないことはないって話なんで、ちょっとした休暇も兼ねて東大陸のジルダスにある蚤市に行こうって誘った。
あと、ついでにあっちで呪具対応用の便利な魔具が無いか、聞いておこうとも思っている」
毎年確認作業に駆り出されるのは微妙だし、次から次へと新しい使い方が見つかって国のお偉いさんがそのたびに大慌てして俺をこき使うことになっては迷惑だ。
呪具の先進地であるあっちでどんな使い方と対処方法があるか聞いて回って、ついでに対処用の魔具があるならアファル王国で改造版を売り出せないか検討しても良いだろう。
「なるほどね、それは良さそうだ。
呪具に限らず、東大陸には普通にあるけどアファル王国では広まっていない便利そうな魔具やその他の道具に関しても何か目についたら買ってきてくれ。
魔具じゃなく道具を普通にシェフィート商会が輸入なり製造なりすることになった場合はその分の報酬は払うように手配するよ」
アレクがにこやかに提案してきた。
「まあ、良いけど・・・お前んところのお袋さんとか義姉さんとか、セビウス氏とか普通の支店長とかも一度船で連れて行って街の店を探索させたらどうだ?
『便利な道具』って言っても日常生活で不便さを感じていなくちゃ売れる!なんて思いつかないし、俺たちじゃあそういう不便さにかなり鈍感だと思うぜ?」
基本的に家の作業はパディン夫人にして貰っているし、魔術や清早・蒼流の助けでかなりのことも力技で出来てしまう。
それにちょっと気が向いたら便利そうな魔具を費用度外視して自分たち用に造ったり、便利そうだと思って作ったものの販売には向いていないと却下になった物などもある。
どう考えても、俺たちの日常生活は一般的ではないだろう。
「なんだったらケレナやデルブ夫人も連れて皆で屋敷船でば~っと東大陸まで一直線に行っても良いかもねぇ。
屋敷船で急げば数日で往復できるよ?」
シャルロが提案する。
確かに、大人数で転移門を使うのは魔術師が居てもそれなりに高くつくが、屋敷船でちょっとした休暇っぽい感じに行くのなら良いかも知れない。
まあ、とは言え東大陸の方が暑いから真夏に行くには向いていないし、年末年始は商会とかだったら忙しいだろうが。
春か、秋ごろかね?
「ふむ。
兄は一度商会の船でジルダスに行っているんだが、母や義姉や普通の支店長を連れて行くというのは考えていなかったな。
ちょっと今度提案してみるよ」
アレクがちょっと考えてからゆっくり頷いた。
「・・・つうか、話を聞いてないけどお前ら家族をパストン島に呼んだの?
アレクなんて、シェフィート商会の支部を作ろうかな~なんて言っていたじゃないか」
俺はちゃんとシェイラは一応招いたが、イマイチ興味なしと言われただけだ。
まあ、時期が開発初期で宿泊施設とかが微妙だったって言うのもあるが・・・基本的にシェイラは緑豊かでのどかなパストン島よりもジルダスの蚤市の方が興味があると言っている。
アレクの家族もそっち系かも知れないが・・・もしかしたら日々の仕事の疲れを癒したいと思っている人間もいるんじゃないのか?
シャルロの方はオレファーニ侯爵領もそれなりに長閑って話だから必要ないかもだが。
「興味があったら自分で行くだろうと思って特に誘ってなかったなぁ。
場合によってはジルダス行きの途中に寄っても良いかもだね」
シャルロが肩を竦めた。
アレクの方がもう少し前向きな感じだった。
「ふむ。
まあ、そちらも家族に今度聞いてみるよ」
「そう言えばさ、シャルロの親父さんかお兄さんの家宰か秘書かに帳簿のチェックの仕方って教えて貰えないかな?
勿論、シャルロがしっかり知っているならシャルロでも良いけど。
もうそろそろアレクが出してくれる書類の確認の仕方をしっかり理解できる様に勉強した方が良いかと思うんだが」
忘れる前についでにシャルロに聞いておく。
アレクの書類を今まであまりちゃんと見ていなかったってバレるから本人がいないところで相談すべきかとも思ったが、疑っているように思われるのも微妙だったので取り敢えずあまり深く考えずに聞くことにしたのだ。
「あ~。
そう言えばそろそろちゃんとしなくっちゃだよねぇ。
最初に一応簡単なことは習ったんだけど、大分と複雑になって来たし量も増えてきたから、今度ちょっと来てもらって一緒に見ながら教わろうか?」
工房の端にある書類棚と机を見ながらシャルロが言った。
「都合が合いそうだったら私も付き合うぞ?
ダメだったら質問を黒板にでも書いておいてくれ」
アレクが苦笑しながら付け足した。
アレクへの質問なんて出てくるのかな?
こう、書類なんてプロに掛かれば一目瞭然なもんなんじゃないの?
今までちょくちょく裏帳簿のチェックとかをアレクに頼んでいるが、アレクは別に裏帳簿の作成元に質問なんぞしていないと思ったが。
まあ、取り敢えず乞うご期待ってやつだな。
アレクはやばい裏帳簿だから大方理解できれば良いだろうと思って質問は諦めていますが、普通は必要ですよねw