743 星暦556年 桃の月 10日 年末の予定
「ちなみにさ、年始はまた王都で歴史学会の会合とかがあるんだろうけど、年末はどうなんだ?
特に予定が詰まっていないんだったら、ちょっと休みを取って東大陸に数日遊びに行って、蚤市とかを見て回らないか?」
惚れ薬モドキ呪具の話を終え、シェイラに相談しておきたかった年末に関する話題を持ち出す。
年末を暖かくてそれなりに設備も整ってきたパストン島でのんびり過ごすって言うのも有りだが、俺もシェイラも緑豊かな島でのんびりしたいタイプではない。
それよりはシェイラが楽しみそうな東大陸のあの巨大な蚤市でも歩き回った方が面白そうだ。
ついでにあっちの顔役にでも呪具を持っていたら分かる魔具でもあるのか聞いてみるのも良さそうだし。
一応呪具関連の仕事は終わったはずだが、下手に年末まで王都に居ると何かウォレン爺に頼まれそうだし、年末に向けてアレクが忙しい工房関連は年初まで各々適当にやることになっているので、休暇としてシェイラと時間を過ごしたい。
あの呪具のせいでこき使われたが、軍部から大分と金は貰ったし。
「蚤市?
ああ、確か街の傍にある遺跡からの発掘物や古い魔具や、それらの偽造品が山ほどあるんだっけ?」
シェイラがちょっと興味を持ったように手を止めた。
「そうね、どうせ今年の締めの報告は大体準備が終わっているから、ウィルと一緒に休暇を兼ねて東大陸の蚤市を見て回るのも良いかも」
お!
前向きじゃないか。
上手く誘いに応じて貰えた時に備えて最初にジルダスに行った時に泊った宿の部屋は押さえておいたのだが、態々転移門であっちに行った甲斐があったようだ。
やっぱり領事館の客室は安全かも知れないが視線が集まる感じがして寛げないんだよなぁ。
一応俺もパストン島の地権者の一人だから、うっかり領事館をうろついていると事業の話を持ちかけてくる商家のやつらもいるし。
空滑機改があればパストン島に泊まってシェイラと一緒にジルダスとパストン島の間を飛ぶのも可能だが、パストン島まで空滑機改を持って行くのが大変だし、東大陸での空滑機改の販売が解禁されているのかも不明だから、下手に狙われるかもしれないような魔具は持って行かない方が良いだろう。
つうか、空滑機改にせよ、空滑機にせよ、アファル王国以外での販売ってどうなっているんだろ?
一応販売したら収入が入ってくるんだから、シェフィート商会か魔術院からの収入の明細を見たら分かるんかもしれないが・・・。
そこら辺の所をアレクに任せっきりにしているのってバレたら怒られるんだろうなぁ。
目を通してチェックしておくようにって言われている書類の中に含まれているのだろうけど、おれはパラパラっとめくって前と比べて変わっている大きな数字があったら理由を確認している程度だから実質あまりチェックとして意味がないんだよなぁ。
シェイラにでも見て貰うべきかな?
流石に付き合っているだけで結婚していない女性にそこまで赤裸々に収入源を見せて良いのか、ちょっと躊躇するけど。
下町の孤児時代には女に財布をがっちり握られて哀れだった野郎をそれなりに見た。
シェイラが自分の出費まで俺に出させるような業突く張りだとは思わないが、金に関してはずるをしたくなるような誘惑を大切な人の前に置かないのも大切だって盗賊時代に付き合いのあった酒場の親父が言っていた。
・・・今度、シャルロにあの報告書の確認ってどうやっているのか聞いてみようかな?
考えてみたら、寝ている部屋の家賃分以外は俺とシャルロとアレクで収入も支出もほぼ三等分しているんだ。
シャルロがちゃんとチェックしていたら俺にとっても問題が無いってことになる筈。
あいつだったらそれこそ侯爵家の家宰とか秘書とかに確認を頼んでいるか、確認の仕方を教わっているかもだし。
うん、それが良い。
東大陸に遊びに行く前にちょろっと聞いてみよう。
今までってサブタイを変えると日時も流れている事が多かったんですが、シェイラ続きだし日程も推しているので同日なままです