074 星暦550年 桃の月 6日 横道へ・・・
人生は長い。たまには予定とは違う横道へちょっと逸れて趣味に走るのも悪くは無い。
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最初の頃は人によってはあまり実用性のない魔具を作り上げてきた俺達だが、授業を1年近く受けてきた今となっては基本的にそこそこのレベルのモノが出来あがるようになった。
だが、出来の良さにはやはり違いが出る。
ある意味、魔力とは関係ないセンスだ。
構造魔術のように魔術師が魔力を注ぐ術は魔術師の魔力の大きさがモノを言うが、魔石を動力源にする魔具は魔力ではなく工夫する才能が重要だ。
保存庫作りではケーキに対する執着の強いシャルロと、幼いころからの憧れが強かった俺の作品が特に良かったと思う。
保存能力の完璧さではシャルロのが群を抜き、効率性では俺のが良かった。
ま、俺の目で見た評価だけどね。
ニルキーニ教師は各作品のいいところと悪いところを指摘していたが特にどれがいいとは言わなかった。
で。
今日は凍結庫と火器だ。
「凍結庫は中に入れたモノから熱を取り出す魔具だ。その場合、取り出した熱をどうするかが問題になる。
さむい地域ではそれをそのまま家の暖房に使うところもあるが、大抵の場合、凍結庫がもっとも必要とされるのは暖房なんて欲しくない暑い季節だ。
そこで考え出されたのが、凍結庫の熱を火器に使うことだ」
効率的かもしれないが・・・凍結庫もしくは火器の使用頻度が想定よりも少なかったら問題が起きそうだな。
「2つの魔具をリンクさせて使うことの問題としてどんなことが考える?」
ニルキーニがクラスに尋ねた。
「片方の魔具の使用量が著しく大きいか小さい時にエネルギーの均衡が崩れる」
「リンクさせて熱を移す部分が壊れたら両方が故障するなり下手をすれば爆発する可能性がある」
「2つの魔具の距離が限られるので台所のデザインも制限される」
・・・最後のはどうでもいいことじゃないか?
まあ、いいんだけどさ。
「ま、キッチンのレイアウトはどうしようもないが、最初に上げられた2点に関しては問題が起きないように幾つかの安全策を講じる必要がある。ある意味、それが今回の授業で学ぶ一番重要なことだな」
なるほど。今までではいかに欲しい機能を得る為に魔具を作るかを教えられてきたが、現実的には『欲しい機能』とは別に、『問題が起きないように加える制御』も考慮して魔具を作る必要がある。
考えてみたら、もっと早い段階でこれは教えるべきだったんじゃ無いのかね?
基本を教えてあとは自分で研究して技術を磨けと言うスタンスは、研究で機能を伸ばした際の危険性を教えておかなければ危険だろうに。
・・・ま、誰も大きなアクシデントを起こしていないからそれなりに学院側も目を光らせていたんだろうけど。
「これが凍結庫の術回路だ。この部分で熱を抜き取り、ここで別の魔石・・・この場合は火器のだな、に熱を集めるようになっている。
そしてここに魔石に熱を蓄積できる限界に達したら熱を抜き取るのを止める機能がついている。
凍結庫の術回路を改善する際は必ずこの最後の機能を含ませること。
魔術師が術回路の不備で火事を起こした場合は損害賠償の責任を負うことになるからな!」
おっと。
それは怖いな。
よくよく注意しなくては。
「では、今回は2つの魔具を作らなければならんから、グループで作業してくれ。明日までだ!」
うう~む。
火器に対する思い入れは余りないからなぁ。
あんまり見たことも無いから工夫もしにくい。
「凍結庫で抜き取った熱を熱以外の形のエネルギーとして使うのって難しいのかね?
どうせなら火器に使うよりも、保存庫の魔石のエネルギー補充に使えたら良いのに」
思わずぼやきが零れる。
「現時点で開発されている術回路では熱から発生したエネルギーは熱を発するための魔石に蓄積させるのは比較的効率的に出来るが、停止魔術を使うための魔石に蓄積させようとするとかなり効率が下がって熱が漏れるらしい。台所でそれでは色々不便だから火器とリンクさせる方法が主流になった訳だ」
質問をしたつもりではなかったのだが、アレクが答える。
「そっかぁ。
じゃあさぁ、僕たちで停止魔術用の魔石に効率的に蓄積させる術回路を開発してみない?」
シャルロが提案した。
俺の提案だったら商業化への目的が一番大きいが、こいつの場合はいかにお菓子を美味しく保存するかを重視しているんだろうな。冷やしておくと美味しいお菓子も多いから、保存庫と凍結庫をリンクさせ、凍結庫の冷気を少しほど保存庫に流し込むようにすれば万々歳だ。
「熱変換の効率性を上げることが出来れば、かなり有用なものが出来るだろうな。少し研究してみる価値はある」
意外なことにアレクも合意した。
そんじゃあ、これが終わったら頑張ってみるか。俺もどうせなら保存しておく飲み物を少し冷やしておく方が美味しく飲めるし。