736 星暦556年 橙の月 19日 確認したら、ヤバかった(14)
「で、王都でも呪具が惚れ薬まがいな使い方をされていないか確認する為に帰って来たの?」
昨晩遅く帰ってきて会っていなかったシャルロとアレクに、朝食後のお茶を飲みながら今回の騒動を説明したらシャルロがため息をつきながら聞き返してきた。
港町の後もう二か所程回ったが、一か所はガルバスト男爵が販売先にしていた場所なので使われているのは分かっていた。もう一か所はまだ売られておらず、特に呪具の使われている様子は無し。
一応海沿いの港町はこれで終わりだったので、丁度19日に王宮で大きなパーティがあるとかで、そこで呪具が使われていないか確認する為に王都に戻る羽目になったのだ。
今日はついでに日中はデートスポット的な路地や喫茶店も回ることになっている。
頭が痛い・・・。
「おう。
なんでも、今日のパーティは若いのが沢山集まるんだって?
中年貴族の不倫よりも、若い独身連中の方が愛だ恋だに夢中になって色々やらかす可能性が高いだろうってんで、使われるんだったらそこだろうって事でウェイターの格好で歩き回れってさ」
着飾らなくて済むのは助かるが、ウェイターの格好で動き回る場合は片手にお盆を載せて歩き回る必要があるから、あれも一晩やると腕が疲れるんだよなぁ。
「ああ、冬の社交シーズン始まりの若い人向けの舞踏会だねぇ。
ちょっと小手試しみたいな小さいのはちょこちょこもうやってるけど、王宮でやる今夜のが正式な社交シーズンの始まりみたいな感じだから、誰も彼もが集まるんだよね」
シャルロが頷きながら言った。
「・・・お前も出るのか?」
シャルロがケレナと踊るところを見るのも良いかも?
「もう結婚したし、流石に今年は出なくて良いと言ってくれたからサボるよ〜。
ちゃんと去年までは出てたんだよ?
だけど舞踏会はデザートもあまり種類がないしそれ程美味しくないから、行っても面白くないんだよねぇ」
シャルロが応じた。
高位貴族の息子の癖に、シャルロも実は社交界ってあんまり好きじゃない様子。
まあ、下町の孤児出身な俺やアレクと事業を始めるような人間なんだ。
普通の社交界を楽しむ舞踏会で踊り回っているような貴族とはあまり話が合わないのかな?
「と言うか・・・この呪具を惚れ薬モドキに使うという情報は商業ギルドにも伝わっているんだろうね?」
アレクが少し顔をしかめながら聞いてきた。
「警告を出すことで利用方法が広まると、却って当局からの警告文にちゃんと目を通さないうっかり屋な人間がターゲットになりやすいかもってお偉いさんの方は悩んでいるみたいだな。
貴族の方は流石に高位貴族とかだったら被害者になる可能性が高いだろうし、そこまでうっかりな人間は社交界に出てこないだろうってことで被害者になりそうな若いのがいる家は知らせているらしいが・・・商業ギルドだったら大きな商会でも情報を抜き取る手段として活用しかねないからどうするか、悩んでいるらしいぜ。
アレクとしてはどう思う?」
貴族に対して使う場合は情報収集手段よりも政略結婚の横槍が目的の場合が多いだろうという事で、それなりに若いのへの警告として話が広められることになっている。
まあ、政敵の政略結婚を邪魔する為に色々やる可能性もあるだろうが・・・流石に一級禁忌品を使うリスクを負うぐらいだったら暗殺する方がまだ発覚した時の処罰が軽い可能性が高いから、情報を広めてもプラスな面がマイナスを大きく上回るだろうとお偉いさんたちは判断したらしい。
が。
商業ギルド内や商会同士の戦いとなると『情報』が直接『金』に繋がる可能性が高い為、どれ程大手の商家でもヤバい手法を使いかねないと情報部としては考えているらしい。
そんな信頼されない商家の一員として、アレクはどう思うのかね?
「確かに、商業ギルドのトップや王都で有数の商会が情報収集の為に違法行為に手を染めないかと言われたら・・・微妙なところだな。
呪具を惚れ薬モドキな感じに使ってハニトラの効果を上げ、定期的な解呪で呪具を使った証拠を消せるとなったら十分リスクと便益の面からやる価値があると判断する人間がそれなりに出てきそうだ」
ため息を吐きながらアレクが応えた。
おやまぁ。
なんとも熾烈な世界だね!
ある意味、アレクが恋愛結婚じゃなくって適当な時期にお見合いして結婚すると言っているのも理解できる気がする。
打算に基づいた結婚の方が下手に愛しているとか言った感情に基づいて判断するよりも信頼できそうだ。
ちょっと世知辛い気がするけど。
社会が落ち着いて貴族はそれなりに裕福な地位が固定化されているせいか、貴族よりも商会の方が情報収集とか裏切りとかが熾烈だったりw