733 星暦556年 橙の月 12日 確認したら、ヤバかった(11)
「ちょっと落ち目とは言え、普通の商人の娘なんでしょう、この方?
まだ未婚のようだし、こんな手紙を後生大事に隠し場所にしまい込んでおかずに、普通に結婚すれば良いのに」
ファルナがにやにやと笑いながら次男に話しかける。
「お見合い婆か。
軍部と言えでも女性士官は暇なようだな」
次男が鼻で笑って返す。
これって俺がこの部屋に居る必要全くなくない???
なんだったら今まで回ってきた街に戻って他の所でもこの呪具が売られていないか確認してきても良いし!!
・・・まあ、あれだけ書類が残っている所を見ると、ここが配給源のようだから書類を読み解かすか此奴の口を割らせる方が早いし確実なんだろうが。
「相手のお嬢さんの方もそれなりに貴方に好意があるみたいじゃない?
どうせ次男なんだし、貴方との結婚でも良いんじゃないの?
あまり露骨に金のある相手とか由緒正しい貴族と結婚したら周囲の目を引きすぎるでしょうに」
ちょっと呟く様にファルナが話す。
なるほど。
男爵家の裏稼業を此奴が指示していたとしたら、あまり光が当たるような場所に出て注意を引いては不味いか。
次男の方はむっつり口をつぐんで何も言わない。
まあ尋問されている時に自分からペラペラしゃべるなんて、余程自分のバックの権力に自信があるか、単なる馬鹿かだからな。
呪具関連で軍部相手に自分のバックを過信するタイプは単なる馬鹿だ。
「もしかして、色々と利用用途を考えている貴方の結婚相手には勿体ないって父親に反対されていた?
邪魔だったらあっさり強盗殺人に見せかけて義理の娘でも殺しかねないって話だから、諦めて正解なのかもね」
おやまあ。
敵対組織ならまだしも、自分の親で組織のトップとなったら妻であろうと守るのは難しいだろうな。
貴族ならまだしも一般市民でそこまで容赦がないのは珍しいが・・・考えてみたら貴族なんだっけ。
やっていることは成金貴族というよりは単なる裏社会の顔役に近い様だが。
裏社会の顔役的ななりふり構わぬ容赦なさと貴族になって名前を上げていきたい野心とが合わさって、家族にとって一番面倒な形になっちまったのが現男爵って訳か。
「どうせ一級禁忌品を扱ったんだからあなたの父親も爵位はく奪だし、取り締まりを受けて今までの怪しげな行為もしっかり厳格に法に照らされて裁かれるわ。
たんなる違法貸金業の捜査になって罰金と名目上の隠居で許されることになるか、禁忌品や麻薬や人身売買の首謀者としてしっかり裁かれて処刑まで行くかはあなた次第ね。
処刑されるような悪人の息子となったら例え当局の捜査に協力して減刑されても肩身は狭いでしょうけど・・・貴方ならこじんまりと家族で堅実に暮らしていくぐらいなら出来るんじゃないの?」
邪魔な父親を法に排除させて自分が幸せを掴めるチャンスは今だけだぞとファルナが誘惑する。
まあ、排除させなきゃ処刑されるのは此奴になるんだから、どちらにせよ協力するんじゃないかと思うけどね。
それとも当局に協力したらその恋人(未満??)を殺すとでも脅されているんかね?
「あなたなら有能そうだから、王都なり別の街なりで警備隊や軍部、もしくは役所で働けるよう手配しても良いし、今回の騒動が収まるまであなたの愛しい人とその家族を別の街で保護するのも可能よ?」
確かに一気に組織の人間全員を捕まえないと親父の男爵を裏切ったら報復でその女性や女性の家族が危ないだろう。
というか、流石に組織の下っ端まで一人残らず処刑する訳にはいかないだろうし、ちょっとした協力者程度だったら網から零れるだろうからどちらにせよ協力するならその女性も女性の家族も違う街に引っ越して名前も変えて新しくやり直した方が無難だろうな。
落ち目な商人だったらあまり嫌がらなそうだが。
どうなんだろ?
「・・・兄は殆ど何も知らないんだ」
むっつり黙っていた次男が呟く。
ふうん。
綺麗な貴族の名前を継がせる為に長男はお綺麗な貴族(といっても成金貴族だけど)の生活をさせ、次男に裏社会の仕事を任せていたんかね?
でも、役人が直ぐに思い当たるぐらいグレーなことをやりまくっている父親だ。
そのお綺麗な兄貴は実情に気が付かなかったんだったら単なるおバカだし、気付いていて知らぬふりをしていい暮らしを享受していたんだったら中々の食わせ者だぜ?
有能っぽい癖に此奴は意外と家族関係に関しては馬鹿なのかな?
麻薬や人身売買に加担していて純愛って少し無理あるかも??
まあ、親の手伝いをしている事務方トップと言う感じだと思って下さい。