731 星暦556年 橙の月 12日 確認したら、ヤバかった(9)
隠されていた地下室には上の書斎机と同じぐらいのサイズの机と椅子、及び書類用の棚があった。
悪行をしていてもちゃんと書類を整理しているなんて、中々偉いじゃないか。
まあ、アレク曰く脱税でもちゃんと記録を取っておかないと辻褄が合わなくなって税務調査でバレることがあるらしいから、そのせいなんだろうが。
いや、証拠書類まで残っているとしたらそれは親への報告義務ってやつかね?
自分で悪事をやっているんだったら自分が分かるように記録は残すにしても、変な証拠書類は全部始末しておくべきだ。
パラパラと書類用の棚にあったファイルを取り出して確認してみると、取引先のファイルなのか、相手の名前や通称、敵対勢力や家族の詳細、相手の組織の人員の名前や役割まで細かく書いてあった。
こいつ、滅茶苦茶細かくない???
色んな捜査に協力してきたけど、ここまでしっかり資料を集めているのは初めて見たぞ。
今まで税務調査にせよ人身売買の案件にせよ、特にそれ程真面目に資料を見てはこなかったが、ここまでわかりやすく詳細な資料を見たのは初めてだ。
しかも一歩下がって棚全体を確認したら、書類が幾つかの塊に分類されている。
調べてみたら、呪具関連の売買、麻薬の売買、人身売買等々違法事業の分野ごとに書類がまとまっている。
スゲ~。
ある意味、セビウス氏に匹敵する情報収集力とアレクに匹敵する情報整理能力じゃないか、これ??
本人が本腰を入れて悪事をやるつもりなら、大陸を網羅するような犯罪網を作れそうだな。
ある意味そうなったら手に付けられないぐらい巧妙に隠れちまいそうだが。
上で騒いでいた男はそこまで有能そうには見えなかったが、人は見かけによらないってやつかね?
こういう悪事に関して無駄に有能な奴って捕まったらどうなるんだろ?
どう考えても鉱山で働かせても才能の無駄遣いだし・・・暫くしたらあっさり逃げそう。
流石に裏社会のコネを全て書き記している訳ではないだろうし。
かと言って国の為に働けって説得して本当に悪事から足を洗うのかは不明だし、国の組織の一部として取り入れてから悪事を再開し始めたら手に負えない気もする。
まあ、ウォレン爺とか国のお偉いさんが頭を悩ませる問題だな。
書類を調べるのはやめて、更に地下室の中を確認する。
隠し金庫も一応あったが・・・こちらも基本的に換金用の物が多かった。
あとは妙に特徴的だけど地味な指輪とか鍵とか。
どっかの犯罪組織との取引の際の照合用の品かな?
ファルナ、頑張れよ〜。
ここに時間が掛かるようだったら、さっさと他の街を俺が回れるよう応援を手配してくれ。
それはさておき。
基本的に次男はこの地下室が見つかることは想定していなかったのか、あまり物が隠されていない。
まあ、一々隠し場所から出し入れするのは面倒だし、毎日出し入れしていると床や家具に跡が残るしな。
これだけ書類があったら、忍び込んだライバル組織の人間程度に重要書類をピンポイントに盗まれる可能性も低いだろうし。
大々的に国軍と警備兵に踏み込まれたら隠したって隠し通せないと開き直っていたんだろうな。
とは言え。
良く見たら、机の引き出しと天板の間に隠し場所がある。
「どうしたの?」
机の下に潜り込んだ俺にファルナが声をかけてくる。
「もう一つ隠し場所があった」
正面から足が見えないように前方が覆ってあるスタイルの机なので、座る側から潜り込んで引き出しの方へ向いて後ろの方へ手を伸ばす。
中々取り出しにくいから、これは普段は出し入れせずに、とっておきの何かを隠しておく場所かな?
引き出しを全部出して上を探っても出てこない様になっているが、引き出し上と、天板との間に薄いファイルを挟めるような隙間がある。
引き出しその物が机に固定されているので、普通だったらこんなところにスペースがあるとは思わないだろうが、極僅かに引き出しの上の部分の天板が下から削られた形になっているのだ。
手を伸ばして、やっと指に触れたちょっと厚いファイル用のカバーを引っ張り出して机の下から這い出す。
這い出して来る最中に斜めになって滑り出てきたのか、立ち上がった際にちらりと見えたのは手紙の様だった。
微かに香水の匂いがする。
げ。
またヤバいラブレターとかかよ?!
浮気するならヤバい手紙なんぞ書くなよ!!
取り敢えず、お偉いさんのヤバい情報なんて知りたくないので慌てて中身が目に入る前に紙をカバーの中へ押し戻してファルナに渡す。
「俺は読んでないぞ!!」
握りつぶすなり利用するなり、そっちで好きにしてくれ!!
本人の思い出の品なら良いですが、脅迫用のヤバいシロモノだったら読んだ人間は消されそうなんて思っているウィルですw
まあ、流石に国軍の士官を特務中に殺すなんて事は普通はしませんけどねぇ。