730 星暦556年 橙の月 12日 確認したら、ヤバかった(8)
「ガルバスト男爵ってどんな人物なの?」
ファルナが傍にいた役人に尋ねた。
「豪商だった先代が没落男爵家に婿入りして乗っ取った男爵家の当主で・・・先代はそれなりに一般市民的な感覚を残していたのですが、当代は『成り上がり』と言われるのがコンプレックスだったせいか金貸し業を主にやるようになりました。今では貴族と一般市民両方からエゲツなく金を毟り取って優位に立とうとするので有名ですね」
役人が直ぐに答えた。
周囲に確認するまでもないぐらいこの街では良く知られている人物らしい。
まあ幾ら大きめな港街だとは言え、地方の大都市程度だったらそれ程沢山貴族はいないか。
しっかし。成り上がりなら貴族から忌避されるから、それこそ一般市民を大切にしなくちゃいけないんじゃないのか?
「よくそれで生き残れているわね?」
ファルナも俺と同じことを思ったのか、ちょっと呆れたように尋ねた。
「金貸し業者っていうのはどうせ不評ですから。
資金がどこからきているのかに関して不穏な噂も流れていたのですが・・・どうやら金貸し業だけでなく違法品の密輸入でも稼いでいたようですね」
不機嫌そうに役人が応じる。
裏社会にコネがあり、警備兵も詰め所へ買収した人間を配置しておけば、密輸入の調査が入りそうになったら直ぐにしっぽ切りも出来るしそう簡単には捕まらないんだろうな。
今までも役所側も何度か苦い思いをしたようだ。
警備兵だけでなく、役所の方にも買収された人間がいるんだろう。
上から命じられて動く警備兵が情報を得るのは直前だ。
もっと早い段階から情報漏洩していなければ、しっぽ切りも損失が大きくなる。
「その次男の隠れ家はどこ?」
ファルナが縄に縛られて大人しく待っていた裏社会の男に声をかけた。
「北通り2番の5だ」
あっさり男が答える。
「証拠書類が隠してあるあなたの隠れ家は?」
「北通り5番の4」
暫し考えてから、ファルナが頷いて一緒についてきた軍人の一人に指示を出した。
「パルグ。5人ほど連れてその男と一緒に北通り5番の4とやらに行って、他の人間が証拠書類とかを処分しない様に見張りながら集めておいて。
私たちは先に男爵の次男とやらを捕まえて隠れ家を根こそぎ捜査した後、そっちに行くわ。
親の男爵の方に繋がる情報があったらそっちに先に行くかもしれないから、必要があったら適当に誰かを出して軽食でも食べてなさい」
これって『根こそぎ捜査』は俺の役割なんだろうなぁ。
マジで追加報酬、期待しているぜ?
◆◆◆◆
ガルバスト男爵の次男とやらの隠れ家があったのは中々お上品な住宅街だった。
まあ、お上品と言っても中の上クラスの商家の人間と、貴族の愛人が暮らしているような地域だから本当に超高級という訳ではなかったが。
「ゼネファルト・ガルバスト!
一級禁忌品密輸入及び販売の疑いで逮捕する!!」
大きな声を上げてファルナが飛び込んでいく。
成金地方貴族だったら下手に地方の役人と警備兵が踏み込むより、国軍士官の格好をしたファルナが国軍兵(と警備兵)を連れて踏み込む方が『全部殺してなかったことにしよう』と無駄な抵抗をされないで済むという事らしい。
俺は勿論ドタバタした騒ぎが収まるまで入り口近辺で待ってたけどね。
一応心眼で確認したら地下室はあったし隠し金庫も複数あったが地下通路は無かったので、さっきの裏社会の実務責任者程は用心深くないらしい。
静かになってきたので中に入り、最初に目についた書斎にあった隠し金庫をまず開けて中を覗いてみた。
金と宝石にナイフ。
それこそ強盗や警備兵に押し入られた時用の『見せ』隠し金庫かな?
書類も普通に引き出しや棚に入っているだけだし。
折角高級そうな書斎机があるのに、あまり使っていないようだ。
「何かあった?」
ファルナが首を突っ込んで聞いてきた。
「うんにゃ。
単なる囮用の隠し金庫だな」
そのまま家の中を歩き回り、リビングの奥のサンルームの絨毯をどけて地下室へ向かう。
取り押さえられた次男らしき男が何やら騒いでいたが、ファルナも俺も無視してそのまま下へ。
・・・考えてみたら、こういう時の捜査の申請手続きってどうなんだろ?
明らかに今回はどこにも申請していないよな??
昔、シャルロの親戚の代官が横領していた時は審議官を使ってなんか手続きに従っていたと思うんだが。
禁忌品だと軍が超法的な捜査権でも持つのかね?
まあ、ウォレン爺が後ろにいるんだ。
後で文句が出てこない様にちゃんと抜け道はあるんだろう。
さて。
この地下室は比較的真剣に隠してあるんだ。
必要な書類は全部ここにあると期待してるぜ~。
ファルナは呪具関連の特務捜査官なので何処にでも押し入れます。
期待していた悪行の証拠が見つからないと後で始末書だけどw