073 星暦550年 桃の月 4日 実験
美味しいケーキと言うのは朝から店に行けない身には中々入手できない。
そうなると10日に一度の休養日に大量入荷して保存庫にしまっておくしかないのかな?
◆◆◆
保存庫。
どこに置くか、何を入れるか。
授業で作り方を習うと聞いた時から色々考えてきた。
貧しい下町の人間にとって、保存庫は憧れのアイテムだ。
剣やダガーは必要に迫られてそれなりの出費でも買うが、その日暮らしの下町の住民にとって保存庫は贅沢品だ。これを持つと言うのは成功した証とも言える。
まあ、もっと成功したら下町から出ていくんだけどさ。
で、考えた結果。
俺としては一食分の食事とお菓子が入る物が欲しい。
ついでに新鮮な飲み物も氷と一緒にキープしておきたいかな。
サイズとしては縦・横・奥行き全部2ハドずつ。
中に棚を入れて2段で使えるようにしたい。
色々試してみた結果、そのサイズで大体俺が保存したいモノを効率的に入れられる。
さて。
外側の素材は金属だろう。
密封性と重さで言ったら金属が一番適している。
中の段は・・・木でいいかな。
その方が軽い。
で。
肝心の術回路をどうするか。
小さいのを手当たり次第に入れるか、大きいのを壁ごとにつけるか。
「停止の術の有効フィールドって球型なのかな、それともまっすぐ上に展開するのかな?」
シャルロが突然つぶやいた。
「ふむ。どうだろうね。考えたことが無かった」
アレクが返す。
「実験してみよう」
水を入れ、インクを垂らして流れが見えるようにしたガラスの水槽の側面に術回路を張り付けて魔力を通す。すぐさま水の動きが緩んできた。
「・・・球系に力が働いているようだね」
更にインクを垂らして確認しながらアレクが言った。
ふむ。
となると、どういう形に術回路を設定するのが一番効果的なのか。
「完全に中を全部有効フィールド内に収めようと思ったら無駄が生じるが全ての側面に術回路を入れる必要があるか。大雑把にやるんだったら上下に2つ入れるという方法もあるし。
・・・とりあえず、上下だけ入れて効果が足りなかったら側面に付け足すということにするかな」
魔術師なんだ。うまく行かなければ改善していけばいい。
アレクが片側の眉をつりあげた。
「意外と大雑把だね。完全に全部の範囲をカバーしたくないのかい?」
「いくら腐らないって言ったって食べ物は作りたてが一番おいしいんだ。保存庫に入れるのはちょっとしたつまみとか非常食みたいなものだからそんなに完璧に効かなくてもいいかなぁ~なんて思ってね」
「僕は全部の面につける。折角買ってきたケーキが完璧な状態で保たれないなんて我慢できない!」
シャルロはきっぱりと言い切った。
ははは。
休養日に大量に街のケーキ屋から好物を仕入れてくるシャルロにとっては確かに完璧に機能する保存庫は重要だな。
上下だけでそれなりに効果があるかを確認する為に水槽の水を入れ替えた後に上下に術回路を置いて魔力を込めてみた。
う~ん・・・。
意外と真ん中付近では効果のない範囲が広いな。
下の段は直接術回路の上に置くことになるから殆どの部分が術の有効フィールド内になるが、上の段は意外とフィールドに入っていない。
真ん中の棚に術回路を入れるか。
そうすればかなり術が重複するから効果が強くなるはず。
うっし。
作ってみるぞ~。
現実の日本では、夕方や夜に行ってもケーキ屋さんって意外と売りきれていないんですよね。
・・・売り切れてなかったのってどうなるのか、ある意味怖くて聞けない。