722 星暦556年 橙の月 4日 もうそろそろ涼しい(10)
「取り敢えず、10個ずつゴム版と金属版の試作品を提供して、あと40個ずつ近日中に提供するという事で軍部とテスト協力の話を合意した」
結局、故障の可能性とか製造時間とか製造コストを鑑みた上で、軍人なら足の冷えはそこまで気にしなくて良いだろうという結論に達して冷え性対策を完璧を期すよりも、本格的に寒くなる前に試作品を軍部に提供することが重要だろうという事で簡素バージョンを100個作って軍に渡すことになった。
行商人用の商家に売りつける奴は足先も温めた方が良いだろうという事でもう少し冷え性対策に時間を掛ける予定。
まあ、行商人だとある意味軍部よりも予算が厳しい場合も多いだろうから、足先が寒いのは靴下でも余分に履いて我慢する可能性も高いと思うけどね。
・・・というか、寒い分をカバーする為にレンガや石を焚火の傍で温め、タオルに包んで寝袋に突っ込むんじゃないか?
そう言うのを突っ込まれても範囲指定用の魔術回路が断線したり歪んだりしないか確認しておいた方が良いかもな。
「フィードバックを貰って来年に大々的に売る予定なんだっけ?」
どうせ大々的に大量に買うには予算が必要なので、既にもう来年の予算編成に食い込むのは手遅れだろうとアレクが言っていた。
下手に食い込めて既存の業者を急遽追い出したりしたらめっちゃ恨まれるだろうとも。
「2ヶ月程度使った程度で爆発的に人気が出るとでもいうんじゃない限り今回の冬に大々的に広めるのは無理だろうから、来年末の予算編成の際にシェフィート商会の寝袋を組み込んでもらえると良いな~というのが商会側の計画だな」
アレクが頷いた。
まあ、製造とか売り込みとかは俺たちにそれ程関係ないけどね。
行商用のと軍部の遠征用では扱いの手荒さとかも違うだろうから、設計もそれなりに変わってくるし。
行商用ならちょっと複雑で多少デリケートに造っても丁寧に使って長持ちさせる可能性が高いが、軍人への配給品だと自分で金を払っているという意識もない。ただでさえ遠征という大変な集団行動の中で荒っぽくて大雑把な軍人が適当に扱うとなったら・・・頑丈さが何よりも重要になる。
シェイラにプレゼントする試作品はどっちにするか、迷うな。
軍人程荒っぽくは無いだろうけど、絶対に商人よりは生活への関心が薄いだろう、考古学者たちって。
まあ、フォレスタ文明は最寄り街に近いからシェイラはちゃんと毎晩宿に戻っているが、もっと不便な所だったら毎日帰るよりも発掘の時間を増やすために野宿をしそうで心配だ。
まあ、シェイラ用だったらコストを度外視して頑丈で暖かい試作品を造っても良いけど。
担当遺跡が変わったら考えよう。
「そう言えば、軍部に売り込み行った先でウォレン氏に会った。
何やら頼みたいことがあるんだがウィルの予定はどうだろうと聞かれたぞ」
シェイラへ用の寝袋のことを考えていたら、突然アレクがウォレン爺のことを言及した。
「え???
俺はシャルロやお前と一緒に死ぬ程忙しい思いをして働いているって言ってくれたんだろうな?!」
あの爺さんは金払いは良いけど、仕事はキツイ上に軍人と働く羽目になる事が多いから嫌なんだけど。
シャルロがどうしても俺が居なくちゃ困ると言えば他の伝手を探ってくれそうなんだが、アレクじゃあなぁ・・・。
試作品を渡しに行ったら現れたというのも幸先が悪い。
開発が一応ひと段落つくまで待っていたんかね??
「あ~そう言えばこないだ最近何やってるの?って聞かれたから、暖かい寝袋造ってるんだよ~って教えたんだよね。
やっとひと段落ついたから試作品いる?って聞いたんだ」
シャルロがのほほんと付け足した。
ダメじゃん、シャルロ!
死ぬ程忙しいって言っておいてくれよ!!!
またもや爺さんから声が掛かりそう?