718 星暦556年 黄の月 22日 もうそろそろ涼しい(6)
「へぇぇ、これが軍用の寝袋なんだ。
意外と大きいね」
シェフィート商会経由で入手した軍が使っている寝袋を見て、シャルロが言った。
「意外と分厚いな?」
手に取って握ってみると、ガキの頃に盗んで使っていた布団よりも厚い。
毛布無しで寝袋だけで済ますという話だからそのせいだろうか?
中に入っている綿(多分?)の質も良いだろうからガキの頃に金持ちの家で廃棄(捨てるのでは無く下げ渡しだが)用に避けてあった所からかっぱらってきたぺたんこ布団よりも暖かいだろう。
とは言え、軍の野営だったら外に直接か、せいぜい薄いテントを張ってその中で寝ることになる。一応建物の中で使う事が多かった俺の布団よりは厳しい環境で使うのだから、それなりに暖かくないとやってられないんだろう。
「ちなみに、それとなく不満を集めたところ、『真冬は寒いが秋と春は暑い』、『地面が固くて痛い』、『汗をかくと臭くなる』、『日干しても中々臭いが落ちない』、『緊急時に即座に出られないので危険があると思われる時は使えない』といったコメントが集まった」
アレクがメモを見ながら言った。
「断熱性能を良くして、上の部分の綿を減らして代わりに体温と余剰魔力からくる発熱で温める様にしたら温度調整がしやすくなるんじゃないか?
それでも暑かったら横の留め具を半分ぐらい開けておけば良いし」
寝ている間に温度が変わると面倒そうだが。
「汗をかいていたら発熱が止まるように出来ると良いんだけどねぇ。
やっぱり湿度を感知して起動が止まるように出来ないかな?」
シャルロが提案する。
「寝袋の中だったらかなり湿気が籠るだろうから、汗をかいたらかなり露骨に湿度が上がるかも知れないな。
実用的なレベルで感知出来るようにならないか、ちょっと後で試してみよう」
黒板に『湿度テスト』と書きながらアレクが合意した。
確かに、普通に被っている寝具だったら外が雨だった場合なんかに一々切れそうだ。
密封状態に近い寝袋だったら汗をかいたときの湿度は外の天候程度とは全然違うレベルの湿度になる可能性はあるか。だから臭くなるんだろうし。
「臭くなるとか、日干ししにくいとかはシーツを中にボタンで留めて使うようにしたら簡単に洗えるし、日干しもスナップボタンをはずして平らにして干せばいいから、大分改善されるんじゃないか?
極寒の外で使う羽目になるならシーツと寝袋の間に毛布を挟んでも良いだろうし」
まあ、大柄な兵士だったら寝袋の中が狭くなるかもしれないが・・・筋肉が沢山あったら体の発熱量も多いだろうからそれ程寒がりじゃないと期待しておこう。
「緊急時に出られないというのもスナップボタンで横を留める形なら直ぐに出られる筈。
後は下が固いというのは・・・下部用のマットレスを断熱性よりもクッション性を重視したので変えて値段を上げずに寝心地を改善できるか、試してみるか」
アレクが『マットレス部分の改善?』と黒板に書き足しながら言った。
軍人の奴らも甘いな~。
10年近く屋根裏とか馬屋とかどっかの地下室や廃屋といった人目に付かないところで周りを警戒しながら寝ていた俺に比べると、年に数か月程度遠征で野営する『かも』程度の軍人じゃあデリケートさが違うんだろうな。
まあ、それはともかく。
「取り敢えず、適当に発熱用の魔術回路を入れて、どの程度暖められるか試してみようぜ。
後は寝袋に仕込める程度まで湿度感知の魔術回路を小型化できるかだよな」
まあ、平べったいけど面積はそこそこあるので、そこまで小型化する必要は無いけど。
「あれ、そう言えば寝袋って軍事遠征の時なんかどうやって持って行くの?
ぐるぐると丸めて背負うとなったら不味くない??」
工房の床に広げていた寝袋を丸めてどけようとしたシャルロが手を止めて言った。
おっと。
確かにそうだ。
「寝袋ってむぎゅむぎゅって力を込めて空気を抜いて、出来るだけ小さくまとめて括る為に体重を込めて上に乗りながら丸めるよな?」
魔術学院での実習の際に習ったことを思い出しながら付け足す。
「・・・上の綿部分を減らすにしても、下部のマットレス部分が嵩張らない様にするために体重をかけて巻きそうだな。
・・・畳める形に魔術回路を設置できるか?」
眉をひそめて寝袋を見ながらアレクが呟く。
「軍事演習時とか軍事行動時ってそれなりに慌てて動くことも多いんじゃないか?
そうなるとしっかり線に沿って折るとかしないで、適当に力づくで丸めそうだな」
家の中で使う寝具だったらあまり畳む際のダメージなんて気にしなくてもそれなりに丁寧に使用人が片付けるから大丈夫なんだが・・・軍人が各自持ち歩く寝袋なんて、荒っぽく扱われるだろうなぁ・・・。
軍人が野営に使う寝袋なんて特に荒っぽく扱われそうw