716 星暦556年 黄の月 20日 もうそろそろ涼しい(4)
「で、これが腹巻き型発熱魔具?
海底神殿を見つけた後の発明が腹巻きだなんて・・・」
休みに遊びに来たついでに色々と試作品を持ってきた俺に、シェイラが爆笑しながらお茶を注いだ。
別に腹巻きだって大切な開発だと思うんだけどね。
確かに『海底神殿』ほど響きは魅力的じゃあないが。
結局なんだかんだで10日ほど実質さぼっていたシェイラは、忙しくて休息日の今日もフォレスタ文明遺跡の発掘現場で書類を処理している。
それでも一緒に居れば別に良いだろうという事で、遊びに来たついでに腹巻き型発熱魔具の試作品を持ってきたのだ。
ちなみに残念ながら足先タイプは魔力を十分に集められなくて、実用レベルまで温まらなかった。
というか、どうも余剰魔力は血流量とも関係するのか、足先が冷えるタイプの人間の方が足先近辺にある余剰魔力が少ない事が判明したのだ。
お蔭で、足が冷えないタイプの俺とアレクが履けば足首と足の甲に入れた発熱用の魔術回路も余剰魔力でそれなりに暖かくなるのに、冷え性なシャルロとパディン夫人が履いた場合はあまり暖まらない。
はっきり言って、需要と供給(?)が正反対になってしまうので没となった。
俺は足先を温める必要が無いし、下手に温まる発熱魔具を付けると暑すぎて寝づらくなるのに、冷え性なシャルロやパディン夫人では付けても殆ど暖かさを感じられないんだそうだ。
シャルロは自分で魔力を注ぎ込んで寝入る頃に足元を温めるのに使っていたが、余剰魔力を使うという『動力源のいらない便利な魔具』という目標には合致していなかったので商品化は見送ることになった。
その点、腹巻き型は問題なく使えた。
ただまあ、どれだけそれが必要なのかは微妙に不明だが。
「動力が無くても暖まる防寒具って画期的なんだぞ?
とは言え、腹巻き自体を身に着けていたら体が温まるからな。それが余剰魔力で更に発熱したら熱すぎるかも知れないが・・・仄かに暖かい程度だから寒い発掘現場で作業するのには良いかも知れないだろ?
取り敢えず試してみてくれ。
火傷したりしないように上限温度を設定してあるが、体に付けて動かしている間に故障する可能性もあるから居心地が悪いと感じたらすぐに外してくれよ」
試作品を渡しながらシェイラに説明する。
ちなみに、抱き枕に関してはサイズ的にベッドに置いても邪魔にならない程度だと吸収できる余剰魔力量が足りず、イマイチ暖かさが足りない。
ふかふかな生地で覆った可愛いぬいぐるみチックな抱き枕だったら子供の安眠用に良いかも知れないというシャルロの希望でまだ続けているが。
うっかり火事になったりしないよう、子供が投げたり折り曲げたり落としたりおねしょしたり(水で代用)しても大丈夫かを色々と確認しつつ、余剰魔力吸収と発熱の効率を上げている。
ぬいぐるみチックな抱き枕そのものはシェフィート商会の高級路線なぬいぐるみを更に柔らかく抱き枕型にして使っている。
こちらは成功したらシェフィート商会とのコラボ商品という形になりそうだ。
シーツもしくはマットレス型に関しては、寝心地と発熱効率とのテストに時間が掛かっているのでまだ微妙に不明だ。
なんと言っても1日2種類しか試作品を試せないし、その日の疲れ具合とかでも結果が変わるのでテストその物が微妙なのだ。
俺は固い床の上でも熟睡できるので、完全にこれのテストに関しては『役立たず』と言われている。
取り敢えずそれなりに実用性がありそうな試作品が出来たらシェフィート商会の人間やシャルロの親戚あたりにテストさせようと話しているのだが、シャルロとアレクが満足できる試作品が出来ていない。
安全で想定した温度まで温まり、火事にさえならないのだったら、眠る時の寝具の固さなんてどうでも良いだろうと思うのだが・・・二人曰く、『寝心地が悪いんじゃあ幾ら快適に暖かくても意味がない!!!』との事らしい。
シャルロとアレクのベッドの好みも必ずしも一致していないんじゃないかと思うんだが、どうなんかね?
まあ、今年は地下神殿の宝物のお蔭で収入は十分あるから、二人が満足するまで試作を続ける予定だが。
腹巻きって暖かいだろうに何故か個人的には全然使わないんですよねぇ。
何でだろう?
他の人はもっと使うんですかね?