704 星暦556年 緑の月 30日 久しぶりに船探し(16)
「おお~~!!!
これは・・・グラズ様式?ファセール神殿の影響も受けているように見えるな!」
ツァレスが煩かったのでさっさと手漕ぎボートに乗って海底に沈んだ神殿まで来たら、興奮したようにツァレスがあちこちを小走りで見て回り始めた。
水はどけたけど空気の循環は特にしていない(多分)ので地面は湿ったままなので、滑らないように小幅なステップでちょこちょこ走り回っているのが見ていて面白い。
転んで遺跡の一部を壊したりしない様、ちゃんと気を付けて動くんだな。
濡れた海底の歩き方なんてどこで知ったのか興味があるところだが。
経験が足りないのかシェイラは最初に滑って転びそうになったが、その後はかなり用心深く動いている。
とは言え、神殿の周りをへばりつく様に顔を近づけて観察し、ところどこでとこからか持ち出した刷毛ブラシみたいので柱や壁を擦っている様子はツァレスとあまり変わりはない。
はっきり言って、外側なんてそれ程面白くないんだけどなぁ。
「中身を持ち出されたっぽい宝物庫とネコババしたらしき神殿長の地下室もあるんだが、そちらは後回しで良いのか?
基本的に数日程度しか発掘に掛ける時間は無いぞ」
優先順位を確認する為に声をかける。
宝物よりも壁の方が興味があるというのだったら無理に宝を見てもらわなくても構わない。
壁の方が歴史的意義があるというのだったら、金銭価値が高そうな陶器や貴金属の諸々を心置きなく売れるし。
「おお!
そう言えばそうだった!!!
まずは先にそっちを見ようか!」
ツァレスが我に返って神殿の中へ足を進めた。
「ねぇ、本当に数日しかないの??
沈没船探しは20日程の予定なんでしょう?」
シェイラが名残惜し気に支柱の模様を見ながら尋ねてくる。
う・・・。
「神殿長のネコババした宝物を運び出すのに多分何日か掛かるし、王都の方での手配とかも時間が必要だろうから。
壁をじっくり見たいなら俺たちが持ち出す予定の宝物系を運び出している間だったらずっとこっちで壁を見ていても良いぜ?
ただ、フォレスタ文明の発掘作業を放り出しちゃっていいのか?」
まあ、かなり大雑把な歴史学会だから1月や2月だったら脱線して違う遺跡を調べていても後で論文を発表すれば許されるのかもだが。
「あちらは他の人たちに任せてあるから暫くなら大丈夫だけど、こっちが面白いってツァレスがばらしたら皆も来たがるでしょうねぇ・・・。
ちなみに、何人ぐらいここに来れるかしら?」
軽くため息を吐きながら立ち上がり、シェイラも神殿の中へ足を進める。
アレクとシャルロは既に姿が見えない。
ツァレスと一緒に行ったみたいだ。
素人には外の柱はあまり見ても面白くないもんなぁ。
「さあ?
空気の循環とか、俺たちが意図してやっている訳じゃないからどの程度しっかり精霊がやってくれるか微妙に不明だし、あんまり大人数にならない方が良いんじゃないか?」
気分転換としての遊び混じりの金儲けの筈なのに、金にならない大人数の学者の世話に時間を掛けるのは御免だし。
風が吹かない封鎖された空間なのだ。
下手をしたら気付いたら地下室で呼吸が出来なくなって倒れていたなんてことになりかねないから、勝手に動き回る学者をあまり多数で招きたくない。
神殿の中に入ったら、ツァレスが奥の祭壇っぽいところで壁の壁画について熱心に何かをシャルロ相手に説明していた。
長年水に浸かっていたせいで壁画は『あった・・・かも?』レベルで褪せているんだけどねぇ。
極微かな術の痕跡が残っているので色褪せとか塩害対策の術が掛かっていたんだろうが、長年海水に浸かっていたので痕跡しかなく、当然効果は全く残っていないし術回路も視えない。
塩害ってそれなりに経済的に邪魔だから、塩害に効く術があったんだったらそれなりに売れそうなんだけどねぇ。
まあ、昔は海神の愛し子がいたような神殿だったのだとしたら、神の力で塩を防いでいた可能性もあるが。
「神殿の本来の宝物庫はこっちだぜ」
褪せて何があったか分からないような壁画も後回しで良いだろう。
流石に壁画の持ち帰りは無理だし。
映像記録用魔具を使っても殆ど何も見えないんじゃないかな?
まだ持ち出せる宝物(ネコババと最終避難時の撤去後の残り物だけど)の方が調べる価値があるだろう。
多分。
実質壁と柱しか残っていない様な神殿と宝物しか無いので、今回はあまり遺跡発掘っぽくなくてウィル達は大分即物的(売っちまおう!)な気持ちになってますw