702 星暦556年 緑の月 29日 久しぶりに船探し(14)
シェイラ視点の話です。
>>>サイド シェイラ・オスレイダ
『明日なんだけど、こっちに遊びに来ないか?
なんか、沈没した神殿っぽいのを見つけたんだ』
ファーグ近辺で沈没船探しをしているウィルが、明日はこちらに遊びに来ることになっていたので予定を調整する為に連絡してきたはずだったのだが・・・何やら想定外な言葉が耳に流れてきた。
「・・・はぁぁ??
神殿???」
思わず素っ頓狂な声を上げてしまったが、しょうがない事だと思う。
2回沈没船探しに行って2回とも見つけたウィルたちもとんでもないけど、沈没した神殿を見つけたっていうのは更に想定外だ。
なにをやっているの、この人たち??
・・・そう言えば、ハラファ達が発掘している遺跡も学生時代に彼らが見つけたって言っていたっけ???
精霊に加護を貰う様な人ってちょっと普通じゃないぐらい運が良いの??
それとも気軽にフラフラと海底を動き回れれば、誰でも色々と見つけられるのだろうか。
『おう。
なんか、昔は海上に出ている島にあった海神関連の神殿だったみたいだが、ちょっと深い所を流れる冷水の海流に島の下部を削られ続けていて、とうとう嵐の日にぽっきりいっちまって沈んだんだって。
海に沈んだ神殿の伝説とかって聞いたことあるか?』
のほほんとした声が通信用魔具から聞こえてくる。
沈没した島にあった神殿って・・・。
大発見じゃないの!!
何を呑気に言っているのか、思わず肩を掴んで揺さぶりたくなるわ。
「嵐に消えた神殿の伝説はちょくちょく聞くけど・・・この地方で島にあった神殿が沈没した話ってあったかしら?
ツァレスに聞いてみても良い?」
実務はダメダメな人だが、考古学的な知識は人一倍広く深い人だ。
王都にある歴史学会の資料を全てひっくり返す以外の手段としては、ツァレスに尋ねるのが一番確実だろう。
『え~?
明日、シェイラにこっちに来てもらって見せて、よっぽど考古学的に価値があるっていうんじゃない限り、適当に残っている宝を屋敷船に運び込んで王都で売っぱらおうかと思っていたんだけど。
まあ、調べたいんだったら王都で歴史学会の人が暫く調べても良いけど』
ウィルがちょっと嫌そうに言った。
ツァレスに相談したら確実に見に行きたいっていうし、行ったら動かなくなるのは目に見えていると思っているのだろう。
まあ、実際にその可能性は高いし。
「残念ながら私はファーグ沖にあったという海に沈んだ神殿の話は知らないの。
だから正確に考古学的価値とかを判断するにはツァレスに相談する方が確実よ?」
見つけたのはウィルたちなのでごり押しは出来ないが。
しかも、沈没船を探していて『海に沈んだ神殿を見つけた』というからには、神殿は今でも海底にあるのだろう。
だとしたら普通の人間であるツァレスや私にはウィルやシャルロの協力なしには調査も発掘も出来ない。
とは言え。
持ち出された宝を調べさせてもらうのも嬉しいが、やはりそれがあった環境も是非とも見たい。
しかも、今だったらほぼ手付かずの状態なのだ!!!!
自分でも見たいし・・・絶対に後でツァレスに執拗に色々聞かれることを考えたら、連れて行く方がいいと思うのよねぇ。
『う~ん。
まあ、ツァレスがファーグまで来れるように転移門の魔力を供給して、シェイラとは一緒に空滑機で移動しても良いけど・・・。
でも、こっちで神殿を見て回るのは数日程度で、さっさと宝を動かし始めるぞ?』
渋々とウィルが譲歩した。
どうせだったら私も転移門で一刻も早くファーグに移動したいんだけど・・・流石にそれは言っちゃあダメよね。
「ありがとう。
じゃあ、明日の朝8刻ぐらいに魔術院よりも街門で良いかしら?」
ちょっと早いが、ウィルはそれ程早起きが苦手な訳ではない。
ツァレスも未知の神殿を探索できるとなれば夜明けだろうと喜んで出てくるだろう。
◆◆◆◆
「ファーグ沖で海に沈んだ神殿?」
朝食後に現れたツァレスに声をかけて聞いてみた。
「・・・確か伝説にあったかな?
アファル王国より2つぐらい前の王朝の時代だったと思うが」
あら。
一応伝説が残っているとしたら、思ったほど古くは無いのかしら?
「ウィルたちがファーグ沖に沈没船探しに行っているんですけど、何でも海に沈んだ神殿を見つけたらしいんですよ。
明日にでも見においでって言われているので、映像記録用の魔具があったらそれで記録してきますね」
ウィル達のことだ、自分達が開発した試作品ぐらいは持ち歩いているだろう。
多分。
確か、前回の沈没船の積み荷の売却を手伝ったセビウス氏が歴史に興味があって、何でもかんでも全て記録したという話だったから、きっと今回も沈没船を見つけた時の状態とかの記録用に持って来ているに違いない。
「明日行くんだ?
私も行かせてくれ!!!!」
がしっと肩を掴んでツァレスが要求してきた。
そう言うと思っていた。
「ですが、海中にある神殿なので、ウィル達が精霊の力を借りて何とか到達出来ているという状態ですから、ちゃんとした発掘作業は出来ませんよ?
記録を取って、後は持ち出せる物を王都に持って行く程度でしょう。
一部は歴史学会で買い取れるかも知れませんが、大多数はオークションに掛けられると思いますし」
・・・というか、金銭的価値がありそうな物が出てきたのかしら?
「まずはこの目で実際に見ないと!!!
歴史的価値があるなら、学会の方で多少なら予算を融通してもらえるかも知れないし!!!」
ツァレスがぐんぐんと顔を近づけて主張してくる。
「・・・まあ、1日か2日程度だったらウィル達も協力してくれるかも知れませんね。
連絡して、何とかしてツァレスもあちらに行けないか、頼んでみます」
既に連れて行くと合意を貰っているなんて話をしたら、今度は人数を増やせとか日数が短いとか言いだしかねない。
午後になってからウィルが合意して、しかも転移門も実質無料利用できるようにしてくれると教えよう。
ツァレス氏、浮気中w
自分が発掘責任者なのに長期で別の現場に行くのはダメですよ〜。