701 星暦556年 緑の月 29日 久しぶりに船探し(13)
寝室に隠されていた(多分)階段を降りた先にあった地下室は大きかった。
「これって寝室よりも大きくない???」
周りを見回して、呆れたようにシャルロが呟く。
「離れそのものとほぼ同じ大きさかな。
元々は海賊なり敵対勢力に襲われた時の非常食とか水とかと一緒に隠れる場所だったのかも知れないが・・・一面が棚になっていることを考えると、そのうち使用用途が変わったんだろうな」
アレクが壁一面に取り付けられている棚を見ながら言った。
一体どれだけネコババしたんだよ、神殿長。
一族で神殿長の地位を代々継いできたんだったら一人で無く何人かで時間をかけてやったのかもな。
階段が接している場所以外全ての壁に備え付けてあったらしき様子で、他にも部屋の中にも複数の大きな棚があったっぽい。
棚板とかが抜けて形が残っていない木材もあるけど、かなりみっちりこの地下室に物が詰められていた事がうかがわれる。
ある意味、ここまで宝を溜め込めたってことは上が腐る前は神の愛し子が居て本当に神威のある神殿だったのかも知れない。
勿論、棚に緊急時用の食べ物や水を保管していた可能性もあるが・・・砂の間から覗いている金属や陶器っぽい物の様子から見るに、財宝っぽい物の割合の方が高そうだ。
「ネコババした財宝をそのまま島から持ち出さなかったのは失敗だったな。
嵐が来て慌てて逃げようとしても持ち出せる財宝の量に限りがあったんだろうね」
・・・しかも宝物って重いし。
下手したら、船が沈んでいるかもな。
最寄りの港に向かったんだったら小型の船でも沈んでいたら調べたら面白いかも。
「ここらから陸地に向かう航路っぽい部分をちょっと重点的に調べてみるか?
逃げ出した神殿長が乗っていた船が沈んでいる可能性もそれなりにありそうな気がするぜ」
まあ、ここにこれだけ残っていることを考えると、大した量は持ち出せなかったんだろうが。
「う~ん。
ある意味、ここと神殿にある宝を持ち出すだけでも屋敷船の倉庫が一杯になりそうじゃない?」
シャルロが微妙に首を傾げて言った。
「確かに。
慌てて引っ掴んだ宝なんぞ大した量ではないだろうし、小型の船が沈んだのだったら宝が海底にばら撒かれて嵐のせいで広範囲に散らばった可能性もあるから、全部集めようとしたら大変かも知れないし」
アレクが付け加える。
「海底に嵐でばら撒かれた宝を探すのはちょっと遠慮したいな。
じゃあ、明日ここをシェイラに見せて、後は適当に回収してからどうするか話し合いだな」
今までは沈没船の倉庫にあった宝を零さないように気を付けて王都に運びこめばセビウス氏の手配した人夫や学識者が見つかった物を丁寧に取り出して分類してくれたが、今度は分類はまだしも全部を運び出さないとならないから、大変そうだ。
「新しい台車って幾つ持ってきたっけ?」
食料品とかの買い出しの際にあったら便利だろうと1つか二つは屋敷船に持ち込んだと思うが・・・人数分あった方が良いかも?
「売り出す前に1月程度無料で調べさせてあげるから運び出すのを手伝ってと歴史学会に声をかけたら良いかもだけど・・・ちゃんと運ばずにここに座り込んで調べ始めそうだよねぇ」
シャルロが困ったという顔をした。
宝があるなら適当に港町で雇った人間を使うのは危険だが、盗まなそうな学者系は研究に夢中になってちゃんと運ばない気がするんだよなぁ。
「取り敢えず、金銭的もしくは歴史的価値が常識的な範囲だったらセビウス氏に人夫を頼まないか?
とてつもなく高価かもってことになったら俺たちが運ぶことにして」
古い遺跡から出てきた貴金属がそこまでずば抜けて価値があるとも思えないから、普通に沈没船の宝物を降ろすのに使った人夫で良いんじゃないかという気もする。
王都の倉庫で降ろす際に全員の身体検査をしっかりすれば盗まれる物も少なくなるだろうし。
歴史的価値がめっちゃ高かった場合は・・・どうすっかなぁ。
この一部屋分ぐらいだったらちょっと調べさせても良い気もするけど、学者たちってたった一部屋でも調べるのにやたらと時間を掛けたがるから、俺たちの拘束時間が長くなりそうで困るんだよなぁ。
単に金銭的価値だけあって、歴史的価値は余りないとか、不明ということになると期待しておこう。
前回出てきた真珠の経過に関しては次回にて。
まあ、色々教わった結果どうもダメっぽいですが;