697 星暦556年 緑の月 29日 久しぶりに船探し(9)
「「「「・・・屋根???」」」」
珍しく今日は全員そろって探索に来ていた。
此方に来てから、ケレナは友人と会ってお茶をしたり冷やかし交じりな買い物に街をふらついたり、シャルロとピクニックに行ったりしていたのだが、今日は久しぶりに一緒に海底探索に同行している。
アレクも商業ギルドの人と会ったりちょくちょく抜けている日もあったのだが、今日は一緒だった。
で、そんな中で皆でわいわい話しながらファーグの街でお勧めな店の話をしていたら、先ほど水打を当てて砂を払っておいた固まりの傍に来たのだが・・・ちょっと船と違う形が見えていた。
かなり大きな塊で、これは大型船か?!と密かに期待していたのだが・・・船に『屋根』は無い。
甲板が変な形に残ったにしても柱と庇付きの屋根って変だろう。
更に近づいていくと、固まりの詳細がもう少し見えてきた。
「海中に神殿を造っても、水精霊の加護なしには祈りにも来れなくって意味がないよな??」
地中に突き出し巨大な岩の上に神殿があるように見えるが・・・どう考えても実用性は無いだろう。
ここら辺の潮の満ち引きでの水位変動はこの神殿っぽい建物が水面に出るほど極端では無いぞ?
それとも年に一度ぐらい、なんらかの気象条件が一致するとがっぽり水面が下がるのか??
「河口付近の上流から流れてきた土砂で埋もれて洲になった場所が、極端に激しい嵐の後の鉄砲水や氾濫で下の方の土砂が押し流されて水没するという話は時折聞くが・・・これは岩の上に建っているようだから洲ではないだろうし」
船から身を乗り出して岩を覗き込みながらアレクが言った。
『ここは昔、島だった場所だぜ?
支えになっていた下部の岩が海流に削られて細くなっていたのが、嵐の日に折れて沈んだんだ』
清早が出てきて教えてくれた。
「海流って・・・ここら辺はそんなに激しい感じじゃないけど?」
シャルロが周りを見回しながら言った。
水打を放った際の砂の流れを見る限り、大した海流ではない。
つうか、海流って海面を流れるんじゃないんだ??
海岸沿いなんかで波に下が削られて折れそうな岩をファーグの傍でも見かけたから、島がそうなっても不思議は無いかも知れないが・・・神殿っぽい部分が比較的無事に残っていることを考えると折れるのによっぽど長い時間を掛かったのか、それとも折れた後に海流が変わったのか。
『冬になると冷たい水の海流が蛇行してここの近辺に来ていたのだが・・・考えてみたら、しばらく前に火山の爆発で海底の地形が変わって多少海流が移動したな』
シャルロが口にした疑問だからか、蒼流が珍しく姿を現して説明してくれた。
「ここら辺で、水没した神殿の伝説って聞いたことある?」
もしかしたら友人の伯爵夫人から聞いてるかもと思ってケレナに尋ねてみた。
まあ、精霊の『しばらく前』はいつだか知らないが。
下手をしたらシェイラ達の発掘現場よりも更に前の時代の話かも知れないし。
「無いわね~。
まあ、友人も私も、そう言うのに特に興味がある訳ではないし。
シェイラに調べて貰ったら?」
ケレナが首を横に振った。
「そうだな。
明日はあっちに遊びに行く予定だったんだけど、こっちに来ないか誘うよ」
確実に来るだろう。
なんと言っても水中だ。
どう考えても考古学者がしっかり研究できるような遺跡ではないが、取り敢えず見て回って楽しめるだろう。
『海面まで浮かそうか?』
蒼流が提案してくれた。
凄ぇな。
小さいと言ってもシャルロの屋敷とその敷地位のサイズはある島を浮かべさせられるんだ~。
とは言え。
「数百年は水没していたんだろうから、下手に環境を変えない方が良いかも知れないから明日シェイラが見てから場合によっては頼んでも良いか?
ちなみにどんな事だったら可能なんだ?」
沈没船だって浮上させる際に穴から中身が流れ落ちないように色々と工夫する必要があるのだ。
神殿だったら更に色々と気を付ける必要があるだろう。
まあ、何も残っていない可能性も高いが。
『氷の柱で持ち上げれば数か月は平気だな。
もしくはもっと浅い位置まで岩ごと持って行くことも可能だが・・・その際はちょっと動きが荒くなるかもしれない』
地の精霊ではないからそのまま島を元に戻すのは無理だろうとは思ったが、岩の代わりに氷を使えば元の状態に近い形へ数か月は維持出来るのか。
精霊が作った氷って数か月もつんだとしたら・・・夏の間中、家の中に氷を置いておいてもらう事って出来るのかな??
まあ、それはともかく。
取り敢えず、シェイラに明日見て貰ってから要相談だな。
海底都市も魅力的だな〜と思ったんですが、地震とかがあるかも微妙な世界だと都市サイズが水没は難しそうだったのでw