690 星暦556年 緑の月 21日 久しぶりに船探し(2)
「いいねぇ。
屋敷船でちょっと遠出して適当な離島とかの傍で停泊して寝る?
日中はどこかの街の傍に行って使用人とか料理担当の人が暇つぶしに買い物に出られるようにした方が良いだろうけど」
シャルロがアレクの提案に声を上げる。
「ケレナも連れて行くのか?」
妻を放置して長期的なお遊びに行くのはダメだろうが、鷹とか馬の世話が好きなケレナが船に長時間乗っているのは退屈しすぎて嫌がるのではないだろうか?
「う~ん、それなりに興味はあるみたいだから数日は付き合ってくれると思うんだよね。
南西の方にすれば海岸沿いの伯爵領に嫁いだ友達がいるらしいんで、そこについでに遊びに行くことも組み合わせれば20日ぐらいは大丈夫だと思うな」
シャルロが軽く考えてから答えた。
ケレナがその友達の所に遊びに行くっていう誘いは前からあったのか??
勝手に遊びに行くのは例え宿泊は屋敷船でするにしても押し掛けられる友人にはそれなりに迷惑そうな気がするぞ?
その友達にだって予定があるだろうし。
「南西の方か。
南方は昔から陶器が盛んだったから、古い陶器とかが見つかったら面白そうだな」
アレクがお茶を淹れながら嬉しそうに言った。
あれ、此奴って陶器とかって興味あったんだっけ?
こないだの沈没船の時はアレクはどちらかというと魔具関連に興味があって、セビウス氏の方が一般的な宝物にワクワクしていたような印象だったが。
まあ、それはともかく。
「ついでに空滑機も屋敷船に乗せて行って適当に周辺へ行けるようにして色々とノンビリ遊ぼうぜ」
去年の秋ぐらいからなんだかんだと色々忙しかったから、久しぶりにがっつり休みを取ってのんびりしたい。
南西の方だったらヴァルージャへシェイラに会いに行くのも空滑機で気軽に行けそうだ。
「そうだね~。
ケレナと周辺を飛び回るのも良いし、ケレナが友達と飛んでも良いし。
パディン夫人かデルブ夫人に付いてきて貰えないか、頼もう」
シャルロが合意する。
「パディン氏って半ば引退しているとは聞いたが、流石に植木関連の仕事をしているのに20日も離れるのは厳しくないか?」
まあ、今まで仕事のせいで長期的に休みを取れなかっただろうからこの機会に夫婦で遠出するのも良いかも知れないが・・・旅行に興味があったりするのかね?
もっとも、屋敷船で遠くまで出てもイマイチ旅行と言えるかどうか微妙な気はするが。
「どうかな?
デルブ夫人だと船の中の掃除とかをする使用人の管理までしてくれるか分からないから、パディン夫人が来てくれる方が無難そうな気がするね〜。
パディン氏が休めると期待しつつ先にパディン夫人に聞いてみよう。
ケレナも一応使用人の扱いは知っているはずだけど・・・僕たちが遊んでいるのにケレナが使用人の管理とかで忙しかったら不公平だしね」
シャルロがちょっと首を傾げた。
元伯爵令嬢ってそう言う使用人の指示とかも出来るのかな?
少なくとも俺だったら綿埃が服に付くようになるまで放置なんだが。
「パディン夫人に断られたら、別荘なんかで短期的に雇う家政婦兼料理人を家政婦ギルドの方から頼めばいいんじゃないか?
友人と遊べばいいとケレナを誘うのに、船の掃除とかの監督も頼むなんてことになると怒ると思うぞ?」
アレクが口を挟んだ。
確かに。
「っていうかさぁ、まずは20日間も突然出かけるのが大丈夫なのかケレナに確認する方が良くないか?
20日ってそれなりに長いぞ?」
女性だったらドレスのオーダーとか仮縫いとかの予定も入ったりするんじゃないのか?
元伯爵令嬢なのだ。
家族付き合いは残っているだろうから、たまにはパーティとかにも出てるだろう。そうなったらドレスとかの手配も定期的に必要なんじゃないのか?
少なくともシャルロの婚約の際にシェイラに世話になった時には、ああいう立派な服っていうのはかなり計画性を持って手配するって言われたぞ?
しかも女性は男と違って他の人が何を着ていたかしっかり覚えているので同じ服を着回せる回数も限られてるって話だし。
アホらしいし無駄だと思うけど、そういうのにも理解を示すのが円満な結婚生活の秘訣らしいぜ?