687 星暦556年 緑の月 9日 人(+盗品)探し(11)
「これで全部か。
思ったよりも多かったの」
全ての棟の調査が終わり、通信用魔具と隠し通路の場所を書いた紙と3か所で見つかった粉々に粉砕された魔術回路の残骸を見ながらウォレン爺がため息をついた。
「ですね」
確かに、壁に埋め込まれていた通信用魔具も、隠し通路も思っていたよりも多かった。
しかもジジイの頭が痛いという顔を見るに、少なくとも通信用魔具に関しては『知っていて敢えて見逃した』物よりも『気が付かなかった』物がかなり多かったようだ。
隠し通路に関してはどのくらい把握していたのか知らないが・・・多かった。
特に、昨日になって急に追加された王族が暮らしている離宮は隠し通路や隠し部屋があちこちにありまくりだ。
はっきりって、浮気とかやりまくりなんじゃないか???
ついでにあれだったら王子や王女が街中にこっそり出ていくのも十分可能そうだ。
子供部屋の壁にもあるのだ。
好奇心にあふれる子供が適当に遊んでいて見つけてもおかしくない。
しかも、子供が緊急時に自力で逃げられるよう、低い位置に開閉装置があったし。
まあ、実際に王子や王女が王族のお上品な服で下町になんて出かけたら、攫われて二度と姿を見ないなんて可能性も高いが。
下手に王族の子供が行方不明になったりして町中を徹底して探されたりしたら色々支障が出るから、早い時点で裏ギルドの上層部に話が行けば取り返しがつかないことが起きる前に子供が王宮に返されるかもだけど。
ちなみに、暗号用魔術回路は結局見つからなかった。
3つの粉砕された魔術回路の残骸のどれかが本物だったんだと思う。
少なくとも俺は見逃していない筈。
まあ、小型な熱気球みたいな魔具では無い仕組みで空を飛ばしたとかだったら結界にも引っかからずに持ち出せた可能性も無きにしも非ずだが・・・風任せでどこに飛ぶか分からないから、回収が難しすぎるだろう。
人間が乗るほどのサイズにしようと思ったら流石に大きすぎて目につくし。
「ちなみに、通信用魔具の出どころは一つじゃない可能性が高いと思いますよ。
設計がかなり違うのがありましたから。
まあ、盗聴している集団に新しい研究者が入って、大幅に違う設計を思いついた可能性もゼロではありませんが」
態々王宮に色々金を掛けて埋め込む通信用魔具なのだ。
小型化の技術だけでも学ぶものがあるかもと思って、それなりに魔術回路の詳細を調べてメモっておいたのだが、何通りかの種類がある感じだった。
違法に使っているから特許申請をしていない可能性も高い。いいアイディアがあったら貰ってしまおうと思っていたのだが、そのうちの一部は見たこともない魔術回路を使っていた。
この大陸の魔術院は国が違っていても相互連携しているので特許情報は共有されている。
通信関係の魔術回路はかなり徹底的に調べたので、俺たちが携帯用のを開発した後に登録されたのでない限り、王宮に埋まっていた通信用魔具の魔術回路は今まで登録されたことのなかった斬新なアイディアの物もあった。
これって俺たちが登録しちゃっても良いのかな?
それとも、登録したら自分たちの通信用魔具の探索に関与しているとヤバい連中に目を付けられるだろうか。
俺たちの技術を使っていても特許料を払っていないだろうから、俺たちが勝手に使っても文句は言って来ないだろうが・・・特許登録していないとそれに気づいた他の職人や魔術師に登録されて使用料を請求される可能性があるからなぁ。
ちょっとこれは、後でアレクやシャルロと相談しよう。
特許登録って誰が登録したのか、どのくらい簡単に調べられるんだっけ?
一応普通に俺たちが調べる書類には申請者の名前は書いて無かったと思うが・・・どこか別の所に一覧表とかがあるとか、魔術院の職員と仲良くなったら調べて貰えるとかだったら申請関連の殆どをやってくれているアレクに危険が及ぶかもしれないしなぁ。
まあ、一度試作してみてどの程度使い道があるか、考えてから相談かな?
ちょっとした追加的おまけ?
危険かどうかが微妙なとこですが。