680 星暦556年 緑の月 5日 人(+盗品)探し(4)
『西棟の準備が出来たらしいから、一度西門まで戻ってきてだって~』
シャルロから通信用魔具に連絡が入った。
意外と早かったな。
1棟分の人を顔検分と身体検査しながら追い出すのにかなり時間が掛かると思ったが、身体検査は別の場所でやる事にしてまずは西棟を空けるのに集中したのかな?
もうすこし王宮通信室の魔具を調べさせてもらいたかったのに。
まあ、怪しい事をしないか見張られている中では流石に魔術回路をメモへ書き出せない。どのくらい帰るまで覚えていられるか微妙だから、頑張っても時間の無駄な可能性もあるけど。
「分かった。
今行く」
シャルロに答え、入り口から見守っていた兵の方に行った。
「西棟の準備が出来たらしい。
行こう」
「こちらはもういいのですか?」
驚いたように兵に聞かれた。
まあ、部屋の中をぐるっと眺めた後は通信用魔具を眺めていただけだったからなぁ。
「ああ。
ちなみに、あそこの絵の後ろにある隠し場所のパンを取り出すのを忘れないようにな。
カビだらけになったパンの傍に置いておくとナイフも早く錆びるんじゃないか?」
基本的にカビが出るのは湿気ているからなので、そう言う場所に置かれたナイフも直ぐに錆びる。
ただまあ、普通のパンはどこに置いておいてもカビるのでナイフがより早く錆びるかどうかは不明だが・・・少なくとも俺が一々床や壁板を叩かなくてもちゃんと隠し場所が分かるという事を証明するのにちょうどいい情報だろう。
「はぁ・・・」
驚いたように相槌をうった兵を残して、部屋の外で待っていた兵に案内するように合図して西門へ戻る。
今さっき歩いた道のりだから自分でも戻れるが、下手に王宮内の地理を覚えたと思われたら面倒だ。
もっとも、泥棒に入るつもりは無いので何かがあった時の容疑者になって困ることもほぼ無いとは思うが。
頼まれて何か王宮から盗む羽目になるとしたら、依頼主は学院長かウォレン爺だろうからどちらも俺を守ってくれるだろう。
「何か発見はあったか?」
ウォレン爺が聞いてきた。
「いや別に」
パンとナイフの話はこのジジイにはする必要は無いだろう。
「ふむ。
取り敢えず、どのような感じに調べるのか分かっておきたいので、西棟の捜査には儂も同行させてくれ。
行こう。これが西棟の見取り図じゃ」
爺さんがそう言って3階建ての建物の見取り図を渡してきた。
考えてみたら、西棟って3階建てだが他の棟は場所によっては5階建てだったりするんじゃなかったっけ??
歩き回るだけで凄い時間が掛かりそうだな。
最初に調べ始める西棟に襲撃者が隠れている可能性はこの上なく低いとは思うが、取り敢えずいるかも知れないとしたら地下室か、屋根裏部屋か、どこかの隠れ廊下だろう。
取り敢えず中央通路をゆっくりとまっすぐ歩く。
人間だけを探すならもっと早く動いても見落とすことは無いが、流石に魔術回路となるともう少し注意しないとうっかり見落としかねない。
急ぎ過ぎたせいで襲撃者しか見つけられず、隠された魔術回路を見つける為に全王宮をもう一度探す羽目になるのは避けたい。
ゆっくり足を進め・・・入り口から3つ目の部屋の部屋の入口で足を止めた。
おやぁ?
通信用魔具が壁に埋め込まれているな。
なんかどうでも良さそうな部屋に見えるが、盗聴する価値があるのだろうか?
まあ、重要な会話がされるような部屋は探知機で定期的に調べるようになったらしいから、その他の部屋で盗聴して何か思いがけず良い情報が入ることを期待しているのかね?
どこの国がやっているのか知らないが、まめなこって。
「小型の通信用魔具が、そこの馬の絵の後ろに隠されていますね」
横に来て部屋を覗き込んだウォレン爺に小声で知らせる。
意図的に残しておいて選んだ情報を流しているのだったら大声で言ってバレた事を相手に知らせない方が良いだろう。
まあ、襲撃者と盗聴者が同じグループじゃないとしても、何かが起きたのは既にばれているだろうけど。
「ほう。
こんなところにも仕掛けるとは、暇な奴らじゃの」
呆れたようにウォレン爺が言い、メモに書き取っていた。
これって通信機を見つける方の成功報酬も交渉しておくべきだったか??
昼食時にでもちょっと言ってみよう。
見つかった盗聴器を残して偽情報を流せるかも上層部にとって悩ましい問題になりそうですね〜。