678 星暦556年 緑の月 5日 人(+盗品)探し(2)
取り敢えず誓約魔術をした上で、その旨を普通の契約書類に書き出し、俺の報酬は1日金貨50枚、成功報酬も同額とされた。
ある意味、時間をかければかける程良いみたいだが・・・流石にそれはウォレン爺も分かっていたのか誓約魔術の際に情報を漏らさないだけでなく、時間を無駄にせず早急に探索を遂行するという言葉も付け足されていた。
まあ、俺だって無駄に王宮で時間を過ごしたくないしな。
それはさておき。
どうやって『早急に』探索するか。
「ちなみに、その襲撃者は見たら分かるんですか?
人を探すだけなら全員王宮の庭にでも出て貰って、隠れている人間を見つけるのが一番早いんですけど」
庭に集めて貰った人ごみに紛れ込まれる可能性が高い気もするが。
王宮の人の流れなんぞ知らないから、普段どこに人がいるのがおかしくないのか知らない。このままの状態で探すとなったら王宮内にいる人間を全員確認しつつ探す羽目になるが・・・それでは時間が無駄過ぎるだろう。
「ふむ。
西棟から順に中にいる人間を・・・責任者に顔検分させながら一度出させるか。
人がいなくなった筈の部分から探していったらどうだ?」
ウォレン爺が提案する。
「各区画の間を通る隠し通路みたいのって全部封鎖してあるんですか?」
襲撃者を見失ったという事は、隠し通路や兵士が意識しないような使用人用の裏廊下を襲撃者かその協力者が知っていて使った可能性が高い。
全ての人間を王宮から追い出すのでなければ、隠し通路を使って探索が終わった区画に忍び込まれたら見逃してしまいそうな気がするが。
「ふむ。
だったら、顔検分した人間は戻ることを許さずに、年初の舞踊会が開かれる大ホールに詰め込むことにしよう」
俺の考えていたことはウォレン爺も想像がついたのか、あっさり案を修正した。
「ついでに身体検査をして暗号用魔術回路を隠し持っていないのも確認したら見つかるかも?
そう言えば、どのくらいの大きさなんです、探している魔術回路って。
出来れば盗まれたのと同じ物を見せて貰えたら探しやすいんですけど」
変な場所に隠されている魔術回路と通信用魔具を手あたり次第見つけたら全部ウォレン爺に確認させるにしても、探している形や大きさが分かる方が早く動ける。
大きな魔具の中に隠される可能性はあるからより大きな物は無視できないが、魔術回路は分解してしまったら機能するように元に戻すのは大変だから、実物の魔術回路よりも小さい物は無視して良いだろう。
ちなみに襲撃者が間抜けにも顔検分時に身体検査で盗んだ暗号用魔術回路と一緒に発見された場合って俺の成功報酬は・・・やはり貰えないんだろうなぁ。
さっさと早い段階で見つかるなら良いが、1日かけて探した挙句に身体検査で見つかったりしたら悲しいぞ。
「分かった。
情報部の信頼できる人間に身体検査をやらせよう。
実物は・・・これじゃ」
ウォレン爺があっさり胸元から広げた手の平2つ分ぐらいのサイズの魔術回路を取り出して渡してきた。
この大きさを胸元に隠せるって、その服の構造はどうなっているんだ???
情報部の人間の服ってかなり特殊なポケットがあるようだ。
まあ、スラムのスリだって服に沢山のポケットを縫い付けて盗んだ物が落ちたり動いた際に音を立てたりしないように工夫するのだから、情報部の人間が似た様な工夫をしていても不思議は無いが・・・爺さんは現役を引退したお偉いさんなんだろ??
なんでそんな特殊な服を今でも着ているんだよ・・・。
まあ、どうでも良い事だけど。
「ちなみに、この暗号用魔術回路って盗んだら何が出来るんです?」
流石に1対1でアファル王国のお偉いさんとこっそり通信する為に盗む訳ではないだろう。
「あまり知られていない事じゃが、固定型通信機でもある程度の魔力と手間を掛ければ盗み聞き出来るんじゃ。
この暗号用魔術回路をつけた通信機だとそれが出来なくなる。
反対に、盗めば他の暗号用魔術回路を付けた通信機の通信を盗聴出来るし・・・真似れば自分達の通信も暗号化出来るじゃろう」
「つまり、盗まれた事が分かったからには盗み聞きは出来ず、真似されるだけ?」
王宮にいた重要な情報源なりいざと言う時の切り札を使い捨てにしてまで大騒ぎを起こして盗む価値があるのかね?
盗んだ事がバレた時点で有益さが半減すると思うのだが。
それだったら時間は掛かるだろうがこっそり夜中に盗んで研究し、翌朝返すって言うのを完全にコピーなり機能を解析するまで繰り返す方が良くないか?
「うむ。
これだけ大騒ぎを起こして盗むのにはイマイチ向いていない物ではあるから、陽動である可能性も考慮しているところだ」
溜め息を吐きながらウォレン爺が言った。
ふ〜ん。
外部の俺を呼び出したのって便利だからと言うだけでなく、これが陽動で更なる何かがあるかもと言うのを調べるのに忙しいからなのかな?
王宮全部を調べろなんて無茶振りしてくれるが。
「まあ、狙いが何であれ俺は報酬を貰えればいいので、さっさと作業を始めます。
西棟の人間を追い出し終わるまではその襲撃があったとかいう部屋を視て、他の通信用魔具の中に隠されていないか確認してますから準備が終わったらこれで声をかけてください」
携帯用の通信機を見せてから通信室への案内を頼む。
王宮の中でシャルロと別れて動くことになったらもしもの時にすぐに連絡して助けを求められるようにしようと態々持ってきたのだが、正解だったな。
ちょっと使い道は違ったけど。
しっかし。
陽動作戦かもと思いながらも王宮の業務を全部停止しなくちゃならないなんて、役人達も可哀想に。
明日以降の予定が滅茶苦茶だろうな。
代わりに顔検分が終わったら遊びに行かせてあげる訳にはいかないのかね?
明日から残業の嵐だとしたら、せめて今日は半休を貰いたい〜!と役人達は思っているかもw
まあ、状況の細かい説明も無く職場から追い出されるのでそんな要求すら出来ないんですが。