677 星暦556年 緑の月 5日 人(+盗品)探し
通信が入ったとパディン夫人に呼ばれて工房から出ていたシャルロが急ぎ足で戻ってきた。
「緊急の要件で僕とウィルに王宮まで来て欲しいって」
「緊急って?」
王宮に俺とシャルロが呼び出されるような要件に心当たりはないぞ。
「通信機では言えないらしいよ。
空滑機で西門の詰め所まで行ったら学院長が説明してくれるって」
肩を竦めながらシャルロが答えた。
なんじゃそりゃ?
王宮の西門は魔術学院から行く際に通ることになる出入り口だが、何だって詰め所で学院長が待っているんだ??
王宮の人の出入りを止めなきゃいけないような疫病発生だったりしたらシャルロはまだしも、俺は関係ないと思うんだが。
「まあ、学院長が説明してくれるんだろう?
ジャケットを着てさっさと行けばいい。
幸い、仕事はひと段落ついて暫くは書類関連が主だから、二人が王宮で何か手伝いをさせられても大丈夫だから、気兼ねなく働いてくればいい」
軽く笑いながらアレクが俺の方に外出用のジャケットを手渡してきた。
面倒な。
シャルロだけじゃダメなのかね?
つうか、俺だけの呼び出しだったらまた何かの探し物かと思うんだが、シャルロもってなると水精霊関係か?
学院長と門の詰め所でっていうのも良く分からんし。
何かまたこき使われそうな嫌な予感がするんだが・・・。
◆◆◆◆
俺たちの工房からだと王宮の南門が一番近い。
王宮の上は飛べないので敷地の南側沿いに飛んでいたら、何やら王宮の外に荷馬車や徒歩の人が屯っている。
もしかして、王宮が封鎖されているのか?
マジで疫病的な何かでもばら撒かれたのかね?
だがそれだったらシャルロはまだしも俺まで呼ばれる理由が分からないが。
・・・呪具探しに呼び出されたんだったらかなり嫌だぞ。
そんなことを思いながら、通信での指示通り西門の前に着陸し、周りを見回す。
「空滑機の機体はこちらに保管しておきますので、詰め所に向かってください」
俺たちを待っていたのか、すぐに士官っぽい兵士が現れて俺たちに声をかけてきた。
道端に空滑機を放置する訳にもいかないが、王宮でこうも最優先な扱いをされるのってマジでなんか怖いぞ。
「こっちです」
案内されて詰め所に向かう途中、ふと詰め所の向うに眼がいった。
あれ??
王宮全体を覆うような大規模な結界が展開されている。
火の気配が濃厚だから、これって学院長が彼の精霊の力を借りて一人で展開しているのか??
何だって学院長が王宮を封鎖しているのかも不明だが、それで呼び出されたのかな?
確か学院長の火精霊は中級精霊の筈だから、それなりに力はあるものの蒼流には足元にも及ばない。
まあ、学院長の方が魔力の使い方が上手いから、人間と精霊を合わせたらシャルロより『多少劣る』程度になるのかも知れないが。
案内された部屋には学院長と、ウォレン爺が居た。
「おお、早かったな。
助かる。
実は、アファル王国で使っている暗号用の通信機が盗まれた」
俺たちが座るのも待たずに、ウォレン爺が椅子を指差して座る様に身振りをして説明を始めた。
「いつです?」
現時点で王宮を封鎖しているんだったら、盗まれた物がまだ王宮から出ていないと思っているようだが・・・希望的観測なんじゃないのか?
「今朝だ。
大臣用の通信機が設置してある部屋が襲撃を受けて通信兵と護衛が全滅したのだが、偶然遅刻してきた士官が襲撃を目撃してすぐに警報を鳴らしたので、襲撃者が逃走できる前に王宮が緊急閉鎖され、即座にハートネット師に来てもらって火の結界で完全封鎖したのでまだ逃げていない可能性が高い。
だが、襲撃者は殆ど捕まったのだがまだ肝心の通信機の暗号用魔術回路が見つかっていないので、閉鎖を続けているのじゃ」
「炎華にも助けてもらっているが、流石に王宮全体となるとあと2刻程度しか私の魔力は持たん。
シャルロには後を継いで貰いたい」
学院長が短く説明した。
「俺は探索ですか?
王宮中の兵が探しているんですよね?」
王宮の中の隠れ部屋とか隠し通路とか人目に触れちゃいけない文書とかを見つけちまったらヤバい気がするんで王宮探索は遠慮したいんだが。
「今回の襲撃は念入りに計画され、内通者もいると思われる。
王宮の警備兵で見つかるならばいいが・・・難しいだろう。
今回の探索で知ってしまった情報を外に漏らさぬと誓約魔術で誓ってもらうが、どこに行くのも許可するから探してもらいたい」
ウォレン爺が言った。
やっぱ、探索担当だよねぇ。
俺も中級精霊の加護持ちだけど、シャルロが居たら封鎖結界に関しては多分俺の出番は無いだろうし。
まあ、誓約魔術を使うなら、後で口封じされる心配をしなくて済むから、良いとするか。
・・・ちなみにこう言う緊急時って報酬の交渉っていつすればいいんだろ?
久しぶりに研究開発以外の話になります。