675 星暦556年 萌黄の月 27日 空滑機改(20)
「ほうほうほうほう!
これはなかなか目を引きますな!
しかもギルドの裏庭程度の広さで離陸できるとは!」
商業ギルドのおっさんが興奮しながら『近日、西門のグライド・レジャーより貸出予定!』と書いた大きな文字が転写された離陸用魔具を眺めている。
アレクが離陸用魔具の側面を広告に使う話を商業ギルドにしに行ったところ、それなりに興味を示して5年間ほど広告収益の1割分の利益を共有しても良いという話になった。ただまあ当然の事ながら正式合意の前にまず実物を見る必要があると言われ、ついでに空滑機改のお披露目もやってしまおうと商業ギルドの関連部署の人間を何人か招待したのだ。
空滑機改だけだったら商業ギルドの裏庭で見せても良かったのだが、なんと言っても飛ぶ為の魔具である。
飛ばさねば意味がないし、飛ばすために離陸用魔具を展開したら正式に利用する準備が整う前にアイディアを盗まれかねない。
熱気球は既に存在するのだ。
先にあちらにアイディアを使われたら、『空に浮かぶ初めての広告』というインパクトが失われてしまうとアレク及び広報部長が主張したので人目の少ないウチで見せることになった。
4人ほど乗せて運べるという事を証明する為にギルドの人間を3人とアレクが後ろに乗って俺が飛ばすことにもなっているのだが・・・どうも羽根部分の大きさをケチったのがうけたっぽい。
「なんであんなに興奮しているんだ?」
そっとシャルロに尋ねる。
どうせ平時は転移門か馬車を使うことが殆どだろう。
だとしたら別に城壁の端や外で出立しようとあまり関係ないと思うのだが。
というか、元々空滑機改は王都から発つよりも帰ってくる分が重要だと思うのだが。
「広告としては街の中心部で見せるのと、城壁の傍で見せるのでは広告を目にする客層が違うだろう?
これだったら我々は街の中心部で衆目を集められる上、そう簡単に熱気球で真似できない。熱気球は気球部分が立ち上がるまでの場所も含めるとかなり広いスペースが必要だからな。
それに転移門を使えない場所への急ぎの移動に使う際にも、ギルドから直接出立できるというのは時間の節約になるし便利だ」
俺の質問が聞こえていたらしきギルドの若いのが説明してくれた。
なるほど。
客層、ね。
確かに商業ギルドの周辺だったら大きな商家や貴族、外国の商人とかもいて、広告の効果が高そうだ。
城壁の傍ではもっと庶民が多いから商業ギルドに沢山金を払える人間が少ないだろう。
「ちなみに、この離陸用魔具とやらは離陸した後も暫く展開しておけるのかね?
少なくとも王都の上を飛んでいる間は展開したままにしておいて欲しいのだが」
広報部長と紹介されたおっさんがアレクに興奮したように聞いていた。
アレクが説明した時は『儲かるなら5年1割程度なら共有してもまあ良いだろう』程度の『興味は無くもない』程度だったらしいのだが、実物を見たら色々とアイディアが浮かんできたのか、大分と興奮している。
「・・・離陸した後は空滑機改の機体が邪魔になりますね。上空にあがったら文字が小さくて読みにくくなるでしょうし。
それよりは機体の下部に展開できる薄い結界でも考えた方が良いかも知れませんね」
暫し考えた後、アレクが応えた。
うえ~。
空滑機改の下に広告を垂れ下げるのかよ。
まあ、商業ギルドが自分の機体でやるのは好きにしてくれって感じだけど、微妙だ。
防風結界ではなく単に不可視結界を展開するなら魔力消費量も少ないし、風の抵抗もないから動くのにも殆ど邪魔にならないだろうが・・・。
そのうち空滑機の方の下部に広告用の結界を展開させる魔具を取り付けてゆっくり王都の上を飛び回れなんて依頼が来るんじゃないか?
あんまり頭の上で見たくもない広告を飛ばしまくったら顰蹙を買いそうな気がするぞ。
これって誰かに先に相談しておく方が良くないか???
広告用空滑機が大量に王都の上を飛ぶようになって、良い場所の取り合いで衝突事故とか起こしたりしないでくれよ〜。
ファンタジーな世界で王都の上に広告の垂れ幕を垂らした飛行体が飛びまくっていたらちょっと興醒めですね・・・。