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シーフな魔術師  作者: 極楽とんぼ
卒業後5年目
672/1298

672 星暦556年 萌黄の月 15日 空滑機改(17)

「なんかこう、魔力が尽きたら終わりって感じの機体になったな」

ほぼ完成した空滑機グライダー改の試作機を見ながら、思わず呟く。


「確かにな」

横で試作機を一緒に見ていたアレクが頷いた。


空滑機グライダーだって魔力が無ければ推進力が風任せなので好きな方向へ進めないが、重量軽減などの術は機体に刻み込まれているし羽根部分で上昇気流を捕まえて空を滑空するようになっているから、魔石が全部尽きても風を上手に読めばそれなりに飛び続けられる。


それに比べ、空滑機グライダー改の場合はその重量を支えるのに必要な羽根部分の大きさが大幅に増えたことから、結局一部は物理的な翼ではなく魔術で形成する防風結界を使うことにしたのだ。


色々と試行錯誤した結果、離陸用魔具の形も縦に細長いよりはそれなりに寸胴な方が魔力効率がいいと判明した事も原因の一つである。


空滑機グライダー改を持ち上げられるだけの出力がある離陸用魔具の最も効率的な枠のサイズがなんと直径20メタ(メートル)近くになったのだ。


そんな大きさの枠を載せられる機体を造ろうとしたら離陸・着陸できる場所がかなり限られてしまう。


レジャーとして使うだけなら街の外の野原でも使えば良いだろうが、なんと言っても非常時の避難を含めた人間の移動を主目的の一つとしているのである。


がけ崩れや川の増水で孤立するような街の外に20メタ(メートル)四方の平らな空き地があるとは限らない。


それこそ適当な建物の上に降りられるように何か工夫しようかという話もあったのだが、下手に人様の建物の上に降りて屋根に穴を開けたりしたら弁償問題が出てきそうなので、最終的には防風結界を展開できるようにワイヤーで造った羽根型の枠を折りたたんでおく事にした。


こちらは結界の展開にそれなりに魔力が必要になるが、どうせ離陸用魔具を収納する為の結界も必要だし、羽根を小さくする分重量が減って離陸・滑空に必要な魔力が減るということで最終的にはこれで良いだろうという結論になったのだ。


とは言え。

本体が魔力なしには飛べないという事実は中々怖い。

追加の羽根分の結界が魔力切れでなくなっても暫くは滑空できるが、確実に重さで高度を維持出来ずに刻々と下がっていくので、焦ってはいけないが急いで都合の良い着地地点を探す必要が出てくる。


この空滑機グライダー改は慣れた人にしか飛行を許可しない方が良さそうだ。

貸し出し事業をするにしても、レジャー用とは違って『慣れたら自分で飛ばしても良い』ではなく、何らかのテストを受けて合格した人間しか飛ばせないようにするべきだろう。


「じゃあ、飛ばすよ~」

試作機に乗ったシャルロが声を上げる。


今回は試作機の機体は本物と同じ大きさと重さだが、乗っているのはシャルロだけなので負荷はかなり低い筈。

これで問題なく離陸・飛行・着陸が出来そうなら徐々に重さを増やしていき、最終的には何人かの動き回る人間を乗せても問題無いか確認する予定だ。


空滑機グライダーは寝転がる形なので搭乗者が勝手に動き回ることはほぼ不可能だが、空滑機グライダー改は後ろで座っているだけなのだ。


我儘な金持ちだったら何らかの理由で勝手に立ち上がって動き回る可能性もあるので、そんなことをされても機体が墜落しないことを確認しようという事になったのだ。


ちょっと傾いてひやりとさせる位のことは良いんだけどね。

というか、怖い思いをさせないと我儘な客を席に戻せないだろうから、飛行する人間用のテストには『客を怖がらせるけど安全な飛行方法』も含むべきだな。


シャルロが中に入って席に座り、ベルトで体を固定した。

機体の天井に着いている離陸用魔具を起動させるボタンを押すのが見えたと思うと・・・枠が広がり、防空・防熱結界が展開された。

狭い場合は広げられるだけ広さがある上方に展開するようになっているので、今回は家のそばの木を避ける為に5メタ《メートル》程上に開いている。


「何度見ても微妙な光景だな」

アレクが苦笑しながら言った。


「そうなんだよなぁ。

ワイヤーってイマイチありがたみが無いんだが・・・結界に何とか色を付けて不透明に出来ないか、調べてみるか?」

家を造る際の骨組みの枠みたいのが展開されたところで、これで機体が持ち上がるとは普通の人間には思えないだろう。


まだ熱気球だったら気球部分が露骨に目に見えていたからあれが何か役割を果たすんだろうな~と実感できたが、心眼サイトを有さない人間にはこの結界は見えないので、頼りないワイヤーで出来た輪が二つ展開されただけだ。


「そうだな。

不可視結界を付け足すか・・・ごく軽い薄布でも結界のに入れるか?」

アレクが提案する。


「薄くて軽い布がどのくらいの値段になるかだな。

あと、安く手に入る『軽い布』がどのくらい追加重量になるかも要確認かな?」

それこそ蜘蛛の糸などを使った布だったら殆ど重さ無しで熱にも強い物があるが、あれは目が飛び出る程高い。

だが、普通の安い布だとこの結界の大きさにだったらそれなりの重さになりそうだ。


「視界を阻害する結界は色々とあるから、あまり魔力を使わないのがあるか、確認してみよう」

顔をしかめながらアレクが言った。


布もそれなりに高いからなぁ。

離陸時だけの短時間に使うのだったら不可視結界を使う方が安上がりかな?


いつもの事ながら、完成したと思っても色々と足りないことが出てくるぜ・・・。


魔具だから理解できない原理で浮き上がっても気にしない客も多そうな気もしますけどね。

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