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シーフな魔術師  作者: 極楽とんぼ
魔術学院2年目
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067 星暦550年 緑の月 12日 やり過ぎ注意

思うに・・・小さめな家に住んでいる人間が対象だったら、内緒で相手の家の密封性を高めたらそれで暗殺出来るんじゃないかな?

まあ、殺したいというような動機が存在する相手は金持ちが多いからな。大きな家だったら一晩やそこらで窒息死しない位の空気が中に入っているから実現性は難しいだろうが。


◆◆◆



2番目に来た建物は既に土台は終わり、壁が作られている最中だった。


「防音、防寒、遮熱。どれも不用意にやり過ぎてはいけない。何故だかわかるか?」

サシャーナが尋ねる。


「どれも、一番単純な方法は外との伝達を遮断することだから?」

シャルロが答えた。


遮断?


サシャーナが頷いた。

「熱や音を伝えるモノを無くして家の中を外の世界から遮断する度合いが高ければ高いほど、外への伝達を阻害できる。伝わらなければ外の音は聞こえてこないし家の音は漏れない。外の寒さや熱も入ってこないし、家を温めた際の熱も逃げない」


成程。


「伝達を完全に魔術で止めると温度・防音に関しては最適な家になるかもしれないが、誰も住めなくなる」


そりゃそうだ。

気温に関してはあまり考えたことが無いが、音は確実に空気を介して伝わる。これを完全に遮断すると言うのはつまり家の中の空気を外から完全に切り離すということ。

冬に暖炉で火をつけたり、台所で料理の為にかまどに火をつけたりしたら窒息死だろうな。火をつけなくてもそのうち空気が淀んできて気分が悪くなるだろう。


「俺が何のことを言っていると思う、ウィル?」

おや、俺に聞いてきた。分かったような顔をしたのが見えたのか?そんなに表情が読みやすかったつもりは無かったんだが。


「空気の出入りがあったらそれとともに熱も音も出入りしてしまいますね。だけどそれを完全に止めたら住民が窒息してしまいます」


「術者が空気の出入りを止める意図が無くても、防音の意図が強すぎて空気の出入りが阻害された事例が今までにある」


まじっすか。

魔術って『意図』で事象を起こす現象だが、『空気が動くと音が伝わる』なんてことを知らない術者が『音を伝えるな』と意図したら空気の動きまで止めちゃうなんて・・・驚きだ。


「通常の家の場合、窓を開けないのだったら一番大きな空気の出入りは人間が出入りする際に開けられる扉だ。毎日2回程度出入りしているのだったら極端に密封性が高くない限り問題が起きないことが多い。だが、例えば冬に異常気候で雪吹雪のせいで暖炉に火をつけたまま住民が5日程扉を一度も開けずに家に閉じ込められると言う状況はあり得なくは無い。だから家の防音・防寒の構造魔術は自分が意図した結果への効率性だけではなく、普通ならあまりない状況になっても住民が害されることが無いよう十分用心することが重要だ」


サシャーナが肩をすくめながら続けた。

「ま、現実の話としては設計を受け持つ人間と実際に建てる親方がこういったことには注意をする。ただ、偶に不慣れな新人が魔術の効果を計算に入れずに密封性が高すぎる家を作ることがあるから、魔術師は防音や防寒の魔術の依頼を受けた時は必ず換気の程度を確認することが求められている。

確認すれば分かったことを調べずに、うかつな魔術をかけて住民が死に至った場合は業務過失致死ということで家を建てた他の人間と一緒に責任を問われるからな!」


おやま。

そんなこと言っても、俺たちにどうやってどのくらいの換気性が必要なのか、分かれと言うのだろう?


「じゃあ、そう言う術を依頼されたら先生のところに相談に来れば良いですかぁ?」

シャルロがあっさり尋ねた。


「大きな案件ならば魔術院の方に行った方がいいが、ちょっとした相談になら来てもいいぞ」

にやりとサシャーナが笑う。

「勿論報酬の一部は貰うがな」


だぁ~と文句の声が上がるのを無視し、サシャーナが壁の前に立った。

「昨日授業で教えた防寒・遮熱の術だ。昨日教えた術を確認出来たらお前らも自分の担当の壁をやれ。やり過ぎに関しては後から確認するから気にせず、精一杯やれ」


なんだ、散々脅しておいて気にしないでいいって?

どうせなら『やり過ぎない』方法って言うのも見せて欲しかったんだけどな。

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