669 星暦556年 翠の月 24日 空滑機改(14)
「何か物凄く結界に圧力が掛かってるんだけど」
熱風用の魔術回路を熱放射の回路に変えて下部の枠の真ん中に設置し、それを起動してから結界を展開して秤の上に置いたところ、秤の目盛りが動く前に今度はシャルロが異常を訴えて来た。
「ふむ。
熱は出ているし、空気は熱せられているのに重さは変わらないと。
・・・もしかして、上昇気流というのは空気が熱せられて膨らみ、体積当たりの密度が減って軽くなるから上に行くのか?」
アレクが重量軽減の術を掛けた後はピクリとも動かない秤の目盛りを見ながら呟いた。
「暖かくなった空気が何で上昇気流を造るのかは不思議だったけど、膨らんで軽くなるのか。
空気に重さがあるということ自体不思議だけど、下が開いた袋の中の空気を熱すると確かに秤に乗っている籠の重量が減るんだから、空気の重さっていうのもあるんだろうなぁ」
空気の重さって非常に違和感がある考えだが。
「取り敢えず、防風結界の下の一部だけを解除して空気が抜けられるようにするのが良さそうだな。
出来るか?」
圧力がかかって崩壊しそうになっている結界を必死に補強しているシャルロに声をかける。
「展開中の結界の一部だけの解除なんて無理だよ!
ちょっと全部一回止めるからね」
ぼん!
シャルロが結界を解除した途端、熱せられた空気が一気に工房の中に広がった。
「・・・小さな気球モドキの大きさで試していて良かったね」
結界を解除した反動で天井に吹き飛び、床に落ちてきた枠用のワイヤーを拾いながらシャルロが言った。
「下枠と上枠を繋いでいたワイヤーが千切れてるな」
思っていた以上に熱した空気の膨張というのは力があるようだ。
「う~ん。
圧力に合わせて大きくなるような結界が作れれば一番それが良さそうだけど・・・難しそうだからウィル、下に小さな穴の開いた結界にしようか。
下枠の両端にでも、穴用の二次枠を造ってくれる?」
シャルロが下枠のワイヤーを拾ってこちらに渡しながら要求してきた。
ふむ。
結界というのは基本的に守る対象を最初に展開する時の定義の一部として含むので、その大きさが変わるというのは難しい。
枠を対象として結界を展開して、枠が上に動いたらそれと共に結界も広がるようにというのは工夫すれば不可能では無い気もしないでもないが、今回の様に魔術師が直接かけていて結界とのつながりを維持している状態で魔力を追加補給できるのならまだしも、魔術回路を使った結界ではその強度を後から補強できない。
となると、大きくなる結界だと魔力が引き伸ばされてだんだん強度が下がっていき、最終的には崩壊しかねないのでちょっと危険だろう。
熱感知の仕組みと熱放射量の制御を連動させてある程度以上結界が大きくならないように熱量を制限するという手もあるが・・・それでは想定外に重い荷物《乗客》を乗せた場合にどれだけ時間を掛けても離陸できないという事になる。
結界の下から空気が抜けるようにした場合なら、ひたすら空気を熱くして薄く、軽くしていけば多少だったら想定以上に重い荷物でも持ち上げられるはずだから、此方の方が良さそうだ。
まあ、離陸できても重すぎたら滑空できないかも知れないから、そこら辺は要確認だが。
「じゃあ、ワイヤーを繋ぎ直して下に空気穴用の枠を造るか。
空気穴ってどのくらいの大きさが良いんだ?
それこそあの熱気球の下の口位、必要なんかね?」
先日乗った熱気球は下から熱を加えるために気球の下部に穴が開いているのだと思っていたが、実は熱せられて膨張した空気を逃がす役割も果たしていたんだろうな。
「取り敢えず小さめにしてみて、問題があったら大きくしたら良いんじゃない?」
シャルロが肩を竦めながら言った。
結界に穴を開けておくっていうのはかなり不自然な状態だからな。
空気を入れているだけだとしても、出来るだけ小さい方が良いだろう。
という事で親指と人差し指で造った輪程度の大きさの穴を2つ付けた下枠を造り、他の部位と繋げてシャルロに渡す。
「さっきみたいな爆発モドキな事が再度起きても困るから、庭で実験しようぜ」
まあ、完全に密封した結界であの程度だったんだから、穴があいてる今回は爆発してももっと小規模になるとは思うが。
穴の大きさと熱量次第で爆発する条件があるのかも時間や熱量を変えて実験してみないとな。
気球部分が爆発して機体や周囲の建物が破損したら困るし、誰かに怪我をさせたりしたら大問題だ。
熱気球の口が狭すぎて爆発するなんて事ってあり得るんですかね?