667 星暦556年 翠の月 24日 空滑機改(12)
色々と小型模型で試行錯誤したところ、重量軽減の術だけで機体を持ち上げるのは現実的ではないという結論に達した。
空気に掛けられる重量軽減の術の上限が足りないだけなのかと水でも試してみたのだが、水に対して重量軽減の術を掛けられる上限は空気よりは多いもののそこまでではなかったせいで莫大な量が必要になってしまった。
空気よりは水の方が重量軽減の術の上限が大きいのだが、元々の重さが大きいので空気を使うのに比べてそれ程効率がいいわけでは無かった。
しかも水も魔術で空気中から抽出することも可能なので一応試してみたが、俺やシャルロみたいに精霊から提供してもらえる人間以外では、改造前の現行機ですら空滑機の機体を持ち上げられるだけの水を何度も出すのは難しい。
魔鉄を機体に使ってそれに重量軽減の術を掛けたらどうかと実験してみたが、水よりも更に上限が高かったものの魔鉄その物が重いせいで機体全体を魔鉄にしても浮かないだろうという結論に達した。
それに魔鉄その物が高いので民間利用の商品として現実的な値段では無かった。
という事で袋の中の空気に重量軽減の術を掛けた上で熱を加えるのが一番効率的そうなのだが・・・アレクとシャルロが計算してみたら空滑機改の機体を持ち上げるには多分昨日の熱気球に使われていた巨大な袋ぐらいの空気が必要だろうという事になったのだ。
まだ機体すら完成していないので確実ではないが。
「4人分と機体を浮かすのに、重量軽減の術を空気に掛けても熱気球のと同じぐらいの量の空気を温める必要となると、あの気球をしまう場所とそれを浮かせて運ぶだけの追加魔力が必要だな」
空気を通さず熱に強い生地となると軽いのは高いし、安いのは重い。
「布の生地を毎回畳むのも大変だよね」
シャルロがため息をつきながら付け加える。
はっきり言って、シャルロの甥姪を乗せるための機体だったらシャルロが精霊に頼めばあっさり上空まで上げられる。
いい加減、試行錯誤に飽きて来たんじゃないかな?
とは言え、あっさり造れるような物だったら他の誰かが既に造っていただろう。
難しいからこそ商業価値があると・・・信じたい。
「布に防風や防火の結界を張るんだったら、この際布そのものは無くして、防風結界内の空気に直接重量軽減の術や熱を加えたらどうだ?」
防風結界は風を通さない結界だ。つまりは空気を逃さずに溜められるはずだ。
熱を加えるという負荷が結界にどう影響するかは分からないが、上空に上がるだけの時間だけ維持出来ればいいのだ。
不可能ではないだろう。しかも結界だったら上空に上がった後は破棄すればいいので畳む必要もないから手間が大分と減る。
「結界に直接空気をためてそれで機体を持ち上げるのか??」
アレクが驚いたように尋ねる。
「防風の結界に炎系の魔術攻撃を加えても暫くは耐えられるんだ。
守る為じゃなくて浮力を得る為ということで目的は違うが、用は果たせるんじゃないか?」
以前開発した防寒用の結界だって空気が熱と共に逃げないように防風の機能が組み込まれている。
空気を結界で閉じ込めるのはそれ程難しくはない。
問題は結界を枠に固定した際、結界が浮いたら枠(とそれに繋がれた荷物)もちゃんと浮き上がるかだな。
だが、基本的に結界というのは展開した対象から離れない構造になっているのだ。
『離れない』が『一緒に宙に浮く』結果になるかはまだ試していないが・・・なんとかなるんじゃないか?
「面白いね。
確かに結界で空気を溜められたら袋の生地分の重さも無くなるし、生地の購入費とその加工費も必要なくなるし、良いんじゃない?」
シャルロも楽し気に合意した。
「・・・まずは小型模型で本当に結界だけで籠が宙に浮くか、試してみよう」
暫し考え込んだアレクだったが、実現性はあると思ったようだ。
よっしゃ!
上手くいけば、上空に上がってから空気を入れた袋をどうするか頭を悩まさなくて済むぜ!
何も無いように見えるのに籠が宙に浮いたら違和感満載だろうなぁ。