661 星暦556年 翠の月 18日 空滑機改(6)
「想定以上に苦労したけど、ようやく客用のスペースは確定したから、今度はこれを飛ばす方法だね。
ちなみに、土砂崩れで一週間中堅以上の商会のトップが足止めを食らった場合の損害額は大体この位になるから、この四分の三ぐらいまでなら報酬として払うんじゃないかと思う。
機体の製造コストだってお賄う必要があるから、これ全部を稼働用の魔石に使う訳にはいかないが・・・半分ぐらいまでなら許容範囲内かも?」
アレクが黒板の上に数字を書き始めた。
金貨で書かれた数字の横に凡その魔石数に換算した数を書いてある。
「こんなに払えるのか?!」
びっくりである。
俺一人だったら何か月かはそれで暮らしていけるぞ。
「出来るだけ費用は抑えるべきだが、これを稼働費と製造費の上限として考える必要がある。
切実に急ぐ用が無い貴族や引退したご老人の我儘に対応するのに彼らが払う金額も多分これ以上にはならないと思う」
アレクが付け加えた。
まあ、富裕層の我儘への費用というのは数字に変えにくいからな。
事業用途で払うのと同じぐらいは自分の我儘の為に払っても当然だろうとぐらいは思いそうだから、その程度は出してもおかしくないのか?
貴族の場合なんかは絶対に欠席できない王宮での催しや召集とかもあるかも知れないが、そう言うのがあるんだったら最初から転移門を使う可能性も高いし、例外的な状況は考えないでおこう。
「何か、今までと違うやり方だね?」
シャルロがちょっと首を傾げながらアレクに言った。
確かに、今までは幾らまでなら顧客層が出すかなんて考えたことも無かった。
適当に行き当たりばったりに出来る限りのことをしてきたんだが・・・今回は何が違うんだ?
「肥満体形の成人男性というのがこれほど手ごわいとは思わなかったからね。
どうしても稼働費用を想定内の金額に収められなかった場合はある程度以上の体重の顧客は切り捨てる覚悟でいかないと、稼働費用が高すぎて実用性が無い魔具になりかねないと思ったんで兄に調べて貰ったんだ」
散々苦労した椅子の試作品の山を見ながらアレクが苦笑した。
確かになぁ。
重量というのは想像以上に手ごわかった。
空を飛ぶとなると安全性の為にもある程度の余裕を持たせなければならないから、完璧を期したら費用が青天井になりかねない。
出来るだけ効率的に節約をするつもりではあるが、最初から越えられない限界値というのを設定しておくのは無難だろう。
『ここまでなら良いんだから』と努力を手抜きする危険もあるが。
・・・いや、手抜きした分は利益の減少になるから、アレクが認める訳は無いな。
「それじゃあ、まずはこの客用の部分と運転席を合わせた広さと重量を滑空できる翼部分のサイズだね。
この計算で合っていると思うんだけど・・・実験する為にはまず試作機を造らなきゃかな?」
シャルロが何やら細かい計算を書いた紙を取り出した。
ポヤポヤなシャルロだが、意外に計算には強い。
現実に即した損益とかの計算はアレクが一番強いのだが、理論値的な計算だったらシャルロも十分出来るので、今回はそちらを暇な時間にやると言っていたが・・・ちゃんと完成したらしい。
「ただ、馬鹿みたいに大きくなっちゃったから、実際にはここまで大きくしないで翼部分に追加で重量軽減の魔術回路でも設置した方が現実的かなと思う」
もともと、滑空する際は殆ど魔力を使わない設計だ。
レジャー用の空滑機にはそれでよかったが、それなりに重量がある貨物の運搬も目的とする空滑機改には重さを打ち消す為の魔術回路を追加で入れる必要があるだろう。
翼が大きくなりすぎるとそれを降ろす為に必要な場所も広くなり、汎用性が失われる。
「翼部分のサイズと、離陸する為に必要になる魔力と、滑空時の補助に使う魔力との最適値を発見する必要があるな・・・」
ちょっとうんざりしたようにアレクがため息を吐いた。
椅子の方でかなり試行錯誤したからなぁ。
更なる試行錯誤に思わず気分がどんよりするのは俺もだよ。
ちょっと休みを入れるよう、提案しようかな。
試行錯誤は辛いですよねw