065 星暦550年 緑の月 11日 ダガーと建物
「昨日仕上げたんだ」
スタルノのところで仕上げたダガー(短剣)をアレクに思わず見せびらかしてしまった。
別に、『見せびらかす』と言うほどのモノでもないんだけどさ。
◆◆◆
実習の時以来、毎日夕方に鍛冶場に通って色々教わってきた。
・・・というか、最初は単なる雑用係だったんだけどね。
それなりに何をやっているのか分析し、役に立つように努力して通い始めから10日後ぐらいには槌を振るわせてもらえるようになった。
槌を振るって怒られることで色々と吸収してきたと思う。
で、見て盗んだ知識を色々実験してみたかったんで、廃鉄を集めてきて炉を借りて溶かして見よう見まねでダガーを作ってみることにした訳。
使いやすいダガーと似たような形にしたのに何故かバランスが取れなかったり、刃が思ったように形にならなかったり、握りがいい感じにならなかったり中々うまくいかなかったのだが、時々タランやステルノがぽろっと役に立つ助言をくれたりしたのでとうとう完成した。
昨日なんて、砥ぐのに夢中になって気が付いた休養日を丸々一日鍛冶場で過ごしていた。
初の俺様一人の作品だぜ!
魔剣でも何でもない、普通の短剣なんだけどね。
でも、オーダーメードの使いやすいように工夫された剣だし、何といっても切れ味は抜群だし。
長く使っていきたいところだ。
「へぇ。良いバランスだね」
アレクがダガーを手にとって見てみた。
「切れ味もいいはずだぜ」
ふふふ。
ひたすら密度を高め、中の結晶を揃えてあり得ない位にレベルの高い金属にしたつもりだ。
ま、そうすることが本当に一番いい刃を作る方法なのかまだ知らないけどさ。
「すっかりハマったねぇ、ウィル」
アレクからダガーを受け取りながらシャルロが言った。
「拘れば拘るほど、工夫することがあるからつい、ね」
自分ではあまり気が付いていなかったのだが、俺って実はとても拘り性だったようだ。
ついつい色々考えて試してみたくなる自分に、驚いたよ。
「工夫することが幾らでもあるって・・・ウィルの天職じゃない?」
笑いながらシャルロが言う。
「・・・そうか?」
「「そうだよ」」
う~ん・・・と考えていると教室の扉が開いた。
今日の教師はサシャーナ教師。
科目は『構造魔術』だそうだ。構造と言っても魔術の構造ではなく、構造物の。
建物にかかっている魔術と言えば防犯タイプが一番多い。
これに関してはプロなんだけどなぁ、俺は。授業なんていらない気がする。
まあ、破ったり避けたりする為の弱点を見つけるのは得意だが、かける方からの視点では研究したことはないから、考えてみたら学ぶことはあるが。
「席に付け~!」
サシャーナが声を上げる。
生徒が思い思いに席に着いたのを確認して、サシャーナが前で講義を始めた。
「建築物に付与する魔術には
構造そのものを術回路に利用するもの、
柱や壁と言った構造の一部に術をかけるもの、
素材に術をかけるものなど、色々とある。
またドアや窓、金庫などにかけて、能動的な効果を起こす為に魔石でパワーアップする術もあるな」
そ~そ~。
でも、そんな魔術も俺にかかれば屁の河童だったんだよね。
「防犯用の術や、調理店の防火用の術のように能動的にパワーが必要な術は魔石を使うが、それ以外のモノは保温性や防音性を高めたり、状態を固定化して破損を防いだりと言った受動的なモノが多く、魔石を使うタイプは少ない。
だからこそ、周りのエネルギーを吸収して半永久的に継続するような術は非常に高価だ。
宝石や貴金属と並んで遺跡冒険者が追い求めるのはそう言った術が多い。とは言え、術を解読してコピー出来るような研究者タイプは下手をすると遺跡に行っても命を落とすことが多いから、肉体派の冒険者を護衛として連れて行くことが推奨されている」
成程。
遺跡の研究者って一体何だってそんなものに時間と金をかけるのかと思ったら、転売出来る技術が目当てだったのか。
「明日からあちらこちらの建設中の建物を周り、今言った色々なタイプの術が実際に使われている場面をみせる。ついでに現場で少し実習代わりに手伝ってもらう。
頑張ってくれ」
防寒とか防熱の術を持ち運び式で部屋にかけられたら凄く便利かも。
前回までの話を少し展開させたかったんで最初に書いたら、ちょっと中身が中途半端な感じになってしまいましたね。
次からちゃんと構造魔術に集中する予定。