646 星暦556年 紺の月 13日 次は?
「渡河用魔具とオモチャ用魔具って売り先も用途も全然違うよなぁ」
次の開発に関して話し合うことになり、珍しく俺がお茶の準備をしながら呟く。
お茶を淹れるのは実はシャルロが1番上手いのだが、基本的に俺たちはポットに1番近い場所に立っている人間が淹れることにしている。
そんでもって淹れる人間が固定しない様に、パディン夫人にはポットの位置を出来るだけ適当に変えるようにも言ってある。
なので時折俺が淹れる事もあるのだ。
注意を払えば避けられるけど、それは違うと思うし。
「甥っ子にはオモチャの方を期待されているのだが・・・兄は渡河用魔具を推していた」
小さく苦笑しながらアレクが付け足す。
どうやらホルザック氏は息子を裏切ってオモチャよりも渡河用魔具を優先して欲しいとこっそりアレクに頼んだようだ。
「う~ん、僕としては渡河用魔具を先にやりたいかな。
子供用のオモチャってどんな使い方されるか分からないから、この結界を使った魔具に思いがけない癖があるなら先にそれを出し尽くしておいて、安全性を高めておきたい」
シャルロが珍しく真面目な顔で言った。
「まあ、確かに使用上の注意や安全装置をつけておいても、無視されたらどうしようもないからなぁ」
大人相手にだったら注意事項を読まなかったり、安全装置をつけなかったりした使用者が悪いと云う事で誰も文句を言わない(多分)が、子供相手だとどれ程言い聞かせたところで遊びに気を取られていたら忘れられる可能性は高い。
大人もそれを分かっているから、どれだけ使用説明書通りに使えば安全な物であろうと、子供の不注意で怪我をするようなオモチャだったら買うのを躊躇してしまうだろう。
「そうだな。
子供向けというのは我々には馴染みが無いし、甥っ子には恨まれるかもしれないが後回しにしよう」
アレクも頷いた。
元々、俺たちはちょっと便利な魔具を開発してきた。だから遊びに使うオモチャとはそれ程縁がない。
せいぜいが空滑機ぐらいのところだが、あれだって実用性の方が高いだろう。
だからオモチャの販売ルートにもあまり名前が売れていないだろうし、注意すべき点も分かっていない。
そう考えるとオモチャに手を出すこと自体が微妙なのだ。
先に渡河用魔具を開発するのが正解だろう。
アレクの甥っ子用のオモチャは・・・まあ、費用を度外視した、絶対にケガを出来ないぐらい安全な魔具を親戚用に幾つか造っても良いだろう。
シャルロの姪甥もオモチャを欲しがるだろうし。
誰かがそれを真似たくなったら、それは好きにしてくれといったところだな。
「渡河用となったら、馬車を載せられる大きさと頑丈さと出力が必要、それに推進用の装置もつけないとだな」
必要そうな条件を挙げていく。
「そうだな。
馬車を上に載せる形にしたら、先に渡河した後に戻って来た馬も載せてもう一度渡れば良いだろうし。
まあ、浅い川だったら馬はそのまま歩いて渡らせる方が早いし無難だろうが」
アレクが頷く。
「ちなみに、国内の渡河用魔具が便利に使えそうなルートの川って深さはどの位なんだ?」
元々、川の深さなんぞ知らんし、どの程度の深さなら馬が安全に渡れるのかも知らないが、基本的に馬が自力で渡れるなら渡河用魔具に馬を載せることを考慮せずに設計できるだろう。
馬が乗ることが多いなら、子供と同じで何をするか分かったもんじゃないということで色々と安全装置をつける必要がある。
「色々だな。
とは言え、ある意味切実に何が何でも渡らなければいけない状況として、増水で橋が水に流された場合なんかも考えられる。
そう言う状況では馬に川の中を渡らせるのも無理だろう」
腕を組んで考え込んだアレクが俺の問いに答えた。
「うげ~。
それって要は普通に穏やかに流れている川だけじゃなくって、増水して荒れている川でも渡れるように作らなくちゃいけない訳?
テストが大変そうだな」
川が増水する季節って決まってるんだっけ?
何かただでさえ川の中になんて落ちたら危険そうなのに、増水中の川に落ちるかも知れないテストをするなんて、嫌すぎる・・・。
「しかもそう言う氾濫した川なんかだったら折れた枝とか下手したら上流で伐採して運び出す準備をしていた丸太とかが流されてくる可能性もあるから、それの対応も考えておかないと」
シャルロが付け加える。
マジか。
丸太???
流れてくるの???
増水した川は危険すぎて近づかないの一択と言う気もしますけどね〜。