645 星暦556年 紺の月 13日 清掃は重要(16)
「どうだった?」
実家に俺たち的には完成した(でも改善要求があったら付き合う気はある)清掃用魔具を実家にお披露目に行ったアレクが朝食に現れたので尋ねる。
珍しく眠そうだ。
もしかして、家族で何かお祝いでもあって遅くまで飲んでいたのかね?
「母が大興奮していたよ。
どこに売るか、どの程度の数を生産できるか、販売開始をいつにするか、幾らで売るかとか詳細を詰めようと私と兄は夜中まで付き合う羽目になったが・・・中々良い感じに利益が出そうだ」
テーブルの上にあったジュースに手を伸ばしながらアレクが答えた。
遅くまで家族といたものの、仕事だったのか。
ご愁傷様だ。
まあでも、あのお袋さんと一緒だったらワインも不可だっただろうから、少なくとも二日酔いにはなっていないのが救いなんじゃないか?
「あれがそんなに売れそうなのか。
ちょっと意外だな」
貴族や豪商だってパーティや親族の訪問の際なんかには大々的な掃除をする必要があるから清掃用魔具への需要は実はそれなりにあるだろうと思っていたが、まずは数人が使ってあの魔具の良さを広めないと態々富裕層が使用人用の魔具なんぞ買わんだろうと見込んでいたんだけどな。
「母に言われて知ったのだが、魔術学院や各ギルド、軍の施設なんかは床の掃除や窓ふきなんかに専門の清掃業者が入って作業しているらしい。
そう言う業者にとってはあの魔具は業務効率を圧倒的に上げる素晴らしい道具だから、飛ぶように売れる筈だと母が言っていた」
なるほど。
確かに、魔術学院でも来客があった時とかにお茶を出してくれるメイドと、掃除をやっている使用人と雰囲気は違ったし、あんまり仲間意識があるような動きはしていなかった。
メイドと清掃業者は雇い主が違ったのか。
・・・派遣の清掃業者なんぞ使ったら情報漏洩のリスクががっつり上がりそうな気がするが、大丈夫なのかね?
まあ、身分証明をしっかり確認した上で、誓約魔術で背任行為はしないと誓わせれば良いのかな?
そう考えると各組織で多数のメイドを雇って全員に誓約魔術を掛けるよりは、プロの清掃業者を雇ってそこの人間にちゃんと誓約魔術を掛けさせる方が効率的な可能性は高いか。
契約した清掃業者の誓約魔術と人事の管理がどの程度しっかりしているかを定期的にチェックしないと危険そうだが。
第一、誓約魔術って本人が悪い事をしていないと思っていれば制約をすり抜けてしまうからなぁ。
あまり魔具とかに詳しくない人間を騙して盗聴用の魔具を適当にあちこちにばら撒かせるのも可能な気はするが、どうなんだろ?
そこまで馬鹿な人間は清掃業者でも雇わないのかな?
最近は色々新しい魔具が増えたから、清掃業者の人間に定期的にヤバそうな魔具を見せて『こういう魔具を許可なく設置・隠蔽することは誓約魔術で禁じられている行為である』って教えておく方が良さそうな気もするが。
まあ、盗聴用の魔具をお洒落なオブジェっぽく細工したら心眼の無い人間には魔具だと分からない可能性が高いから、どちらにしても無駄かな?
「おはよ~!」
シャルロが元気に入ってきた。
「おはよう」
疲れが取れていないアレクが低い声で応じる。
「どうしたの?
お披露目、上手くいかなかった?」
シャルロが心配そうに尋ねる。
「上手くいきすぎて夜中遅くまでお袋さんと販売に関する諸々の話し合いをする羽目になって疲れているんだとさ」
俺の返事にシャルロが笑った。
「大変だったね~。
でも、売れそうで良かった。
僕の方も、実家やケレナの家の方に持って行ったら物凄く好評だったよ」
ほう。
貴族の奥様方でも清掃用魔具に興味があるのか。
まあ、これから孫が増えそうな世代だからな。
幼児がハイハイする絨毯を綺麗にしたいという気持ちは強いか。
「それは良かった。
ちなみに、次は子供用のオモチャと渡河用の魔具、どちらにする?」
絨毯をうっかり剃ってしまった仕組みを畑の収穫なんかにも使えるんじゃないかという気もしないでもないが・・・農村の人的労働をうかつに魔具で代替してしまうのは微妙な気がする。
取り敢えず、そっち方面は誰かから特に要請がない限りはそ知らぬふりをしておく方が無難だろう。
ただでさえ変な呪具とか新しい航路のせいで社会がちょっと不安定になっているのだ。
更に社会構造を変えてしまうような魔具は世に出さない方が良いだろう。
まあ、社会構造を変えてしまう程爆発的に売れない可能性も高いが。
まあ、収穫機がどの位効率の良い物になるかは不明ですしね。
取り敢えず、清掃用魔具は完成!
次はオモチャか渡河用魔具。
同じ原理を使うのに、全然方向性が違うw