641 星暦556年 紫の月 15日 清掃は重要(12)
「渡河用の魔具はそれなりに売れるだろうし、大きな話になると思う。
だからその前に、絨毯掃除用の魔具の開発を終わらせよう!」
ウォレン爺が帰った後にお茶を淹れ直して今後の開発について話し合おうとしたところ、シャルロが徐に立ち上がって提案した。
「まあ、確かに台車を至急にという話は終わったんだ。
オモチャは安全装置のことを考えると片手間には出来ないし、まずは初志貫徹で絨毯洗浄をしっかり出来るようにしてから、渡河用魔具なり子供用遊び道具なりを開発しようか」
アレクも茶葉を取り出しながらあっさり頷いた。
考えてみたら、今回の開発って発端はシャルロの甥っ子たちが不潔な絨毯の上でハイハイする上に、その上に広げた積木とかその他オモチャを噛んだり舐めたりするのが不潔なのでは?という話だったんだ。
軍部や商家が大々的に使いたがるような渡河用魔具の開発なんかを始めたら、シャルロの甥っ子のハイハイの時期に間に合わなくなるかもしれない。
幼児がいつからハイハイを始めるのか知らないが。
使用人が使う絨毯の掃除用魔具よりも商売そのものに使う渡河用魔具の方が利幅は大きいだろう。それでもアレクが特に異議を唱えないという事は、それなりに絨毯清掃用の魔具でも足が出ない程度には売れると思っているんだろうし。
「となると・・・まずはどうやって絨毯から埃を浮き上がらせるかだよな」
工房の端に避けられた試作品やそれ関連の物に目をやりながら呟く。
「そう!
で、考えていたんだけど普通のブラシで擦るんじゃなくって、筒状のブラシを転がす感じで動かしたらもっと埃が連続的に上へ巻き上げられるし、ブラシが絨毯に触れる面積も大きく出来ると思わない?」
シャルロが手を上げて提案した。
なるほど。
通常のブラシは使い易い様に持ち手から下に向けて毛というかピンというか1イクチから3イクチ程度の弾力性のある何か(豚の剛毛?)が突き出した形になっている
ある意味これを棒にでも巻き付ける形で造り上げて転がせば、がっつり埃を巻き上げられるだろう。
「ブラシの毛?の長さを何通りかにして筒状ブラシの特注を造らせてみるか。
なんだったらブラシで埃を巻き上げて除去結界で埃を取り去った後に、細く絞った強い風でも当てて、ブラシで浮き上がらなかった埃も吹き上げさせて取るっていうのはどうだ?」
ブラシを動かすのは人力で出来るから頑張ってコロコロ回して埃を巻き上げさせて除去結界でそれを集め、ブラシを動かしても埃を取れなくなってきたら最後の仕上げとして突風でへばり付いた埃を吹き飛ばす形で浮かしたら更に綺麗に取れるのではないだろうか?
まあ、最初から風で吹き飛ばしながら集める形を試してみても良いが。
「そっか。
絨毯の毛が上に落ちた毛や糸やその他のごみで固まっていると風を叩きつけても埃がちゃんと舞い上がらないかもだけど、ブラシでそう言うのを取り去ったら風で吹き上げさせて除去結界で集めるのもありかな?
しっかり筒状ブラシで何度も埃を除去してからやるのと、ブラシは適当に上のごみを取るだけにして、埃は基本的に風で吹き上げる形にして除去するのとどっちが効率的か、両方試してみよう」
俺のアイディアにシャルロが考えを付け加えていく。
「水を吹き付けて汚れを浮かせて、除去結界で水も取り去るようにしたらどうなるか、試してみるのも良いかも?
ほんの数呼吸分ぐらいの時間濡らす程度だったら色褪せや糸の縮みが起きないかも知れないし。
とはいえ、ほんの数呼吸分の時間濡らす程度で汚れが浮くかは不明か」
アレクが付け加える。
清早や蒼流が水洗いするなら本当に数呼吸分の時間に水に浸かるだけであっという間に何もかも綺麗になるんだが、流石に普通に魔具で吹き付けた水にそう言う効果は無いだろう。
下手に洗剤を混ぜた水なんかを使うと今度はその洗剤をちゃんと除去できるかという問題が出る。
俺たちが指定した洗剤しか絶対に使わないなら洗剤の成分を除去するように結界の魔術回路で定義すれば何とかなるが、掃除用の魔具を使う洗剤なんて家によって色々違う物を使っているだろう。
そうなると洗剤が残ってかえって幼児の健康に良くない状態になる可能性もある。
「取り敢えず、色々と試作品を造ってどれが一番効率的に綺麗に出来るかを確認してみようぜ」
台車づくりで大分埃も出て、工房に敷いていたラグもかなり汚れたことだし。
試作品のテストは幾らでもやりようがありそうだ。
取り敢えず初志貫徹!