623 星暦555年 桃の月 29日 とばっちり(10)
「ちなみに、シェフィート商会って競争相手にバレたら利益激減みたいな機密情報ってあるん?」
明日で今年も終わりということで、今日はシャルロ、アレク、俺とケレナ及びシェイラで集まってのんびり昼食を食べた後、お茶を飲んでいる。
「どう言う意味だ?
事業の情報っていうのは競争相手に漏れたら仕入先なり販売価格なり、いずれにせよそれなりに利益に直撃するぞ?
まあ、だからこそ内部の裏切りがあって情報を盗まれても壊滅的な打撃を食らわぬよう、秘密だけでなく信用や知識で利益を固める努力をしている訳だが」
アレクが首を軽く捻りながら聞き返してきた。
「いやさあ、それこそ薬の販売で有名な街の薬草栽培方法とか、大陸で二か所しか造っていない特徴的な磁器の製造方法っていうのは情報が洩れて独占状態が失われたら一気に利益が減るだろ?
そういう感じの独占しているからこそ儲けていて、情報が狙われる事業ってあるのか?」
まあ、シェフィート商会にはセビウス氏がいるから余程のことがない限り大丈夫だとは思うが。
「商会にはそう言う独占商売っていうのは余りないな。
強いて言うなら我々が作った魔具がそれなりに地味に売り上げを増やしてきているし軍部への販売機会を増やしているから、あれを誰が開発しているのかバレて競争相手に独占販売契約を取られたら痛いかも?という程度だ」
笑いながらアレクが答える。
「え、だって僕たちが魔具を開発しているのは周知の情報でしょ?
それがシェフィート商会で売られているのは誰だって分かってるでしょうに」
シャルロが口を挟む。
「いや、我々が開発しているのは比較的どうでもいい物だと思われているぞ。
ブランド名を別にしているだろ?
態々ブランド名を必要とするだけの物を開発しているなんて思われていないから、レンタル業にも手を出している空滑機以外は殆ど何も作っていないと思っている人間も多いんじゃないか?」
アレクがあっさり指摘した。
ええ、マジ?
それなりに俺たちが開発で成功しているって話は流れている筈なのに、空滑機しか作ってないと思われているんか???
何か微妙な気がするが・・・まあ、態々ブランド名を別にして魔具と俺たちの関係を見えないようにしたんだ。
文句を言うのは筋違いか。
「まあ、だったら特に心配はいらないようだが・・・どうも最近どっかの国が盗聴に特化した通信用魔具を会議室とか寝室とかに埋め込んで情報を盗もうとするビジネスを大々的にやっているみたいでね。
呪具を使っての精神汚染は近いうちに解決すると思うが、盗聴関係は定期的に魔力探知機を使って確認した方が良いかも知れないぜ」
シャルロの方は侯爵家という事で実家には多分国から注意喚起が行くと思うが、シェフィート商会の方は微妙だ。
というか、魔力探知機は一般にはまだ暫く売り出されない予定な筈だから、商業ギルドの方で大々的に注意喚起をするわけにもいかないだろう。
シェフィート商会はアレク経由で過去の『試作品』を入手できるだろうから、もしかしたら既にセビウス氏が定期的に確認しているかも知れないが。
「何それ。
寝室にまで??」
ケレナが嫌そうに声を上げた。
「まあ、領主の所だけだったみたいだから、トップを恐喝出来たらラッキ~ぐらいに思っていたのかもしれないな。
取り敢えず、心眼で時折自分の家とか実家の壁をしっかり確認しておく方が無難かも知れない」
嫌な世の中になったもんだ。
・・・携帯式小型通信機を開発した俺たちが諸悪の根源だったりするのだろうか?
まあ、技術革新というのはいつか誰かが起こすものなんだ。
俺たちがやらなくても誰かがやったさ。
「なんかますますウィルが便利使いされてこき使われそうね」
シェイラがクッキーを手に取りながらコメントする。
「まあ、仕掛けて来ている側だって無尽蔵な労力と資材がある訳じゃあないんだ。
あれだけペルファーナとベルファウォードで頑張っていたら、他に手を出す余裕はなかったんじゃないかな?
とは言え、新しいタイプのサービスとしてどっかの国が売り出していたら、これからガンガン対処しなきゃいけない案件が増えそうだが」
ある意味、あの魔力探知機を開発したのは正解だったな。
じゃなきゃ俺とか、心眼を使える他の魔術師とかが引っ張りだこになりすぎて真面な仕事をやる時間が無くなっちまうところだった。
「ちなみに、この話って魔術院には伝わっているの?
魔具の悪用なんて、本来はあそこが取り締まるべき案件じゃない?」
シャルロがクッキーの皿をシェイラから受け取りながら尋ねる。
「・・・さあ?
将来的には魔術院と商業ギルドが協力してなんか対応策を捻り出すかも知れないが、現時点では軍の情報部と国の上部が頭を抱えている段階だろうからな。
民間の話になるまではまだ暫く掛かるんじゃないか?
最低でも春ぐらいまで魔術院は呪具の解呪用魔具の製造や設置、新しいタイプの流入防止と解呪対応で手一杯だと思うし」
なんとも面倒な世の中になってきたよなぁ。
それとも俺が知らないだけで、違う技術を使ってあちこちの国の人間が今までも色々と暗躍していたんかね?
最初は街の名前を出さないように工夫していたものの、途中で忘れてそのまま呼んでるウィルw
まあ、軍部は特に機密保持の契約は追加でしてなかったし、仲間内だしいいでしょう。
流石にパーティとかで話しちゃ不味そうだけど。