620 星暦555年 桃の月 19日 とばっちり(7)
ちらほらとそこそこの頻度で通りすがる精神汚染被害者をマーキングしながら『もうそろそろ昼食用のサンドイッチが来ないかな~』なんて思っていたら、ファルナがバタバタと早足で戻って来た。
「あなた、精神汚染の被害者だけでなくて魔具を見つけることも出来るんですって?!
金貨10枚出すから、もう1日この街に留まって、全部のギルドを回って魔具探しと、関係者の汚染確認をして!!」
魔力探知機の魔具の数が足りないのかね?
まあ、金貨10枚なら良いけどさ。
「・・・まあ、良いけど。
通行者の確認はしなくて良いのか?」
ファルナが肩を竦めた。
「どうせこの街の住民は基本的にこれから回るギルドの人間か、その家族よ。
歩き回っている人間を適当に調べるより、ギルドで関係者を全員調べる方が確実だわ」
なるほど。
確かにちょっとした盆地で他の街からの往来が難しそうな立地にあるので、住民もある意味限定的でなんらかの関係者なのだろう。
だが人の往来が難しくて余所者が目立つ街でも、通信用魔具なら仕込みさえ出来ればもっと行き来が楽で目につかない別の街から盗聴出来る。
だから通信用魔具の発見を優先するというところか。
俺を使うことにした理由は微妙に不明だが。
魔力探知機の使用が始まって1年ぐらい経ったのだから、生産環境もちゃんと整っていそうなものだが。
まあ、情報部とお偉いさんの部屋だけ調べれば良いやとなってあまり大量に生産しなかったのかも知れないな。
それが突然一気に他の街とかも徹底的に調べることになって足りね~~~!!!ってことになったのかも知れない。
金貨10枚だったらあの魔具を最低でも2つか3つは買えただろうから、もっと軍部は予備を作らせておくべきだったな。
「まあ良いけど。
どうせギルドに人を集めるのにちょっとは時間が掛かるんだろ?
だったらどこか美味しい食事処で昼食を食べさせてくれ」
通行人の確認をしなくて良いんだったら、部屋で食べる軽食で我慢する必要は無いだろう。
どうせこの分じゃあ夕食は慌ただしく、下手したら軽食で誤魔化される可能性もありそうだし。
ファルナが一瞬怒鳴りつけてきそうな顔をしたが、ふうっと息を吐いて頷いた。
「そうね、考えてみたら今すぐにギルドに行ってもまだ準備が出来ていないでしょうね。
まずは昼食にしましょう」
まあ、魔具探しだけだったら人が集まってなくても出来るけどさ。
だけど、腹が減っているんだ。
これだけそちらの都合に合わせて色々と予定を変えているんだ。食事位優先させてもらうぜ。
◆◆◆◆
最初に案内された場所は薬師ギルドだった。
あまり俺には縁がない場所だな。
「そう言えば聞いていなかったけど、この街の特産物ってなんなんだ?」
あちこち30以上もの街を連れまわされるのだ。
一々その特産物を教えられても覚えきれないので雑談に出てこない限り態々尋ねていなかったのだが、流石にギルドを全部回ることになるんだったら聞いておいた方が良いかも知れない。
「薬よ。
元々この地域は珍しい薬草が自生していたんだけど、それと他の薬草の栽培にも成功して、それらを使った薬の研究も進んでいるの。
見た目は地味な街かも知れないけど、薬の世界では超有名な場所なのよ?」
ファルナが何故か胸を張りながら答えた。
なるほど。
薬草の栽培方法から薬の成分や作り方まで、盗みたい情報は山ほどありそうだな。
「やあ、こんにちは。
今回は急なことだったのに快く協力してくれるそうで、感謝しているよ」
ギルド長と紹介されたゼッダという男が挨拶をしてきた。
中々友好的じゃないか。
「いえいえ。
ちゃんと報酬は貰っていますし。
じゃあ、先に魔具の確認をしていきますか?
人が全員そろっているのでしたら先にそっちに取り掛かっても構いませんが」
何か妙に貴族っぽいおっさんだったんで思わずシャルロの兄貴と話す時のような言葉遣いになってしまった。
ファルナが変な顔でこちらを見ているが、気が付かないふりをしておく。
「調薬過程というのは途中で止められない物もあるのでね。
全員がそろうまでもう少しかかりそうなので先に魔具の確認をお願いしたい」
「了解」
ちょっと目を閉じて集中し、心眼で建物の中を視回す。
かなりの数がある。
幾つかは調薬用の魔具だったり、台所の火器や保存庫のようだが・・・残りはなんなんだ?
取り敢えず、一番近くにあった入り口の脇の壁に埋め込まれた魔具を指さした。
「ちなみに、こちらの魔具は?」
「建物の湿度を調整する為に外からの外気の流入を制御する魔具でしてな。
あちこちの入り口や窓に設置してある。
他にも気温や湿度を調整する魔具もあるので、見つけた魔具を全て指摘してくれたらそこにあるべきものかを私の方で確認するよ」
・・・マジか。
ちなみにこのギルド長は領主の叔父。
爵位も一代限りのものですが持っている、れっきとした貴族の一員ですw