表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シーフな魔術師  作者: 極楽とんぼ
卒業後4年目
615/1298

615 星暦555年 桃の月 5日 とばっちり(2)

軍部か国かは知らんが、俺に精神汚染被害者の調査をさせることを頼んできた連中は動きが早かった。


なんとウォレン氏がウチに来て調査依頼を請けるようごり押しした日からたった2日後に、俺はダッチャスで作業を始める羽目になっていたのだ。


くそ寒い中、早朝に空滑機グライダーになんて乗りたくない。なので昨晩こちらに飛んできて指定された港近くの広場に面した宿屋に泊ったら、日の出とほぼ同時にたたき起こされた。


「早すぎるだろう・・・」

俺の体力だって無限じゃないんだ。

あまり酷使されたら2月なんぞ持たんぞ。


ぶちぶち文句を言いながら扉を開けたら、何やら菓子パンっぽい物とティーポットをトレーに乗せた男と、大き目な荷物を持った女がずずんと部屋に入ってきた。


「被害者を心眼サイトで視るだけで識別できるって話だけど、そこの広場に一人連れて来ているの、ここから視える?」

おざなりな自己紹介をしたと思ったら、その女(ファルナという名前らしい。第3騎士団の人間だと言っていた)が俺を窓の方に呼びつけた。


なるほど。

妙に良い宿屋を指定されたと思ったら、部屋から広場を通る人間を確認しろというのか。


まあ、確かに上から視る方が道に立ってやるよりは視野が広いし、目立たない上に通行者の邪魔にもならない。


とは言え。

俺が寝る部屋を使うなよ・・・。

どうせならファルナがこの部屋を取って、俺は裏に面した静かな部屋でも宛がって欲しかった。


取り敢えず、菓子パンを一つ咥えつつ紅茶を注いだマグを手に取って窓際に行き、外に目をやる。


「あ~、あっちの端の銅像の傍にいる奴?」

宿屋から視て広場右上の端にあるどっかのジジイの銅像の傍に、別の人間に腕を掴まれて精神汚染された人間が立っていた。


慣れて来たせいか、大分見分けがつきやすくなった。


「本当に一目で分かるのねぇ。

こちらの魔具でそいつにマーカーを付けてくれる?」

感心したように言いながら、ファルナが大きな鞄から取り出した魔具を渡してきた。


一度だけ魔術学院時代に軍部の見学に行った際に見せられた、長距離攻撃用の魔具に似ている。

言われたとおりに対象の男に狙いをつけてボタンを押したら、魔力的な何かが飛んで行った。


それこそ俺の血でも混ぜた水でも飛ばしたら清早が誰でも何人でも追跡できるが、水を物理的に飛ばそうと思ったらこの寒いさなか窓を開けておかなければいけない。

俺の血を提供するのも嫌だし。

そう思いつつも、見つけた被害者をどうやってついてきた軍人(だろうな、多分。役人にしちゃあどうも物騒な雰囲気だ)に指示するのかと内心心配していたのだが、この魔具でマーキングすれば相手を特定して捕獲できるなら、話は大分楽になりそうだ。


「お!

一発で命中ね。

外した場合は即座にこっちの赤いボタンを押して。

5秒以内だったらマーキングをキャンセル出来るから」

何かやたらと便利な魔具だな。


一体どれだけ金を掛けて軍部はこれを開発したんだろう?

まあ、俺への負担が減るんだったらそれで良いんだけど。


「了解。

じゃあ、今から始めるのか?」


実は心眼サイトには明るさなんて必要ないが、そんなことを態々知らせる必要は無い。

なので一応日の出から日の入りまでという契約になっている。


年末が近くなってきて日が短くなっていて幸いだぜ。

夜に動き回る人間はどうするんだろうかと思ったが、考えてみたらそう言う連中は裏社会に属している人間が多い。


後で確認に駆り出されたら面倒だと思って盗賊シーフギルドの長の方にも今回の依頼のことを知らせておいたので、ギルドの方で割安に構成員の状態を確認したかったらこの広場に来るだろう。


全ての都市で同じ条件で比べるために、どこの都市の場合でも祭りのスタートのスピーチがおこなわれるようなメインの広場で確認作業をすると言われていたので、それも伝えてある。


まあ、暗殺アサッシンギルドや盗賊シーフギルドは指名手配が出ている人間も多いし軍人に本人確認や周囲の人間関係及び直近の行動範囲を調べられる危険を犯せないだろうが、娼婦ハーロットギルドは構成員に仕事を終えた後にここを通って塒に向かうよう指示するかも知れないな。


アレクも、シェフィート商会とその取引先に俺が確認に行く日に皆で広場へ行くよう手配すると言っていた。


従業員の汚染確認の為に高位神官に頼もうにも、今回の事件で神殿も一杯一杯で手が空いていないしお布施だってバカにはならない金額になる。

かと言って精神汚染されている人間をそのまま使っていたらどれだけ情報が漏洩するか分かったものではない。


アレクがそれなりの数の解呪用魔具を買って帰って来たが、全国の支店及び取引先をカバーするには流石に足りないのでどうするかと悩んでいたらしく、俺が無料で(というか国の支払いで)チェックをしに行くと聞いてアレクの母なんかは大喜びしていたらしい。


今確認したところで年末年始の騒ぎの際にまた汚染されるんじゃないかねぇ~なんて思わないでもないが。

取り敢えずシェフィート商会が狙われているかどうかを確認できるだけでも利点があるらしい。


だんだん人通りが増えて来た広場を絶えず見回し続け、時折魔具を使いながら俺は思わずため息を漏らした。


これって昼休みも取れないよなぁ・・・。

せめて美味いサンドイッチと焼き菓子でも準備する様、要求しておこう。


これから2月近く、2日に一回は朝食・昼食が片手で食べられる軽食だけになるのか。

ドリアーナの食事は1回じゃなくって2回としておくべきだった・・・。

これが真夏だったりしたら日給は変わらないのに労働時間が1.5倍近く長引いていた事を考えると、夏に王太子の結婚式があって全ての魔具が締め出されていて良かったw

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ