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シーフな魔術師  作者: 極楽とんぼ
魔術学院2年目
61/1289

061 星暦550年 翠の月 14日 術回路

魔剣作りの鍛冶師にとって、魔術院から手数料を貰う代わりに押し込まれる学生の実習って・・・。

いい暇つぶしの娯楽?


◆◆◆



「さて坊主ども、こいつらを比べて何が分かった?」

スタルノがなまくらを手にとって尋ねてきた。


「そのなまくらのはバランスがちゃんと中心に来ていません」

アレクがまず答える。

「あと、そちらの先日鍛えていたのは柄頭が付いていないので使うのにはより筋力が必要になりますね」

シャルロが付け足す。


さて、こっから難しくなるぞ。アンディはどうするのかな?

「そのなまくらのは術回路が片面に彫り込まれ、その上にコーティングをしているだけなので簡単に壊れるでしょうね」

お、そこまで分かったか。まあ、魔術師は誰だってある程度は心眼サイトの能力があるんだ。真剣に調べればあれは視てとることが出来る。


「その完成した剣の方が先日鍛えていたのよりも剣の密度が高いですね。剣と言うのは形を整えてからどのくらい鍛えれば完成するんですか?」

答えとついでに知りたかった質問も付け加えてみた。


にやり。

スタルノが笑った。

「ほう、そこまで分かったか。腕のいい鍛冶師ならば手触りと音で分かるんだが、お前らの場合は心眼サイトの精度がいいというところだろうな。

ま、どんな手段であれ、剣の出来が分かるのはいいことだ。

こっちの剣はあと2日ほど鍛えれば大体完成する。その後に刃を研いだり柄頭をつけたりと言った作業をする。だから完成まであと丸3日と言うところだな」


下準備に1日、形にするのに1日、更に鍛えたり柄頭をつけたりに3日。つまり月に鍛えることが出来る剣の数は全く休みを取らなくて6本。


しかも魔剣を作ったからと言って売れるとは限らない。

となると、1本売れば一カ月生活できるぐらいのレベルの高い魔剣を作れるようになるまでは独立は難しいと言うところだろうか。

まあ、そこまでレベルが高ければそれこそ作れば全部売れるんだろうなぁ。

魔剣作り・・・というか鍛冶師というのも商売としては難しそうだ。

ま、商売って言うのは何にせよ難しいんだろうんけどね。簡単だったら皆がやっている。


「アレクが言ったように、このなまくらはバランスが悪い。剣の片側に彫りを入れてそれをコーティングでカバーするなんていう信じられないことをしているからな。

剣とも言えないような鉄の塊に適当に術回路を入れて『魔剣』と売る輩が増えて、剣の強度をテストするようになってから出回り始めた新しいタイプのエセ魔剣だ。

元々普通の剣を元にしているから剣そのものの強度はあることはあるが、バランスが悪い。

しかも彫り方が悪い場合は剣の強度も劣化している。

ま、一番致命的なのはこんなにバランスを悪くしてまでつけた術回路が薄いコーティングでしか保護されていないから破損しやすいというところだがな。

『魔剣だから』ということで剣としての機能そのものが悪くても目をつぶる人間がいるから成り立つ商売だが・・・絶対にこう言うことはするな」

じろりとスタルノが俺たちを睨みつけた。


「これは魔術を使った詐欺行為だ」

魔術を使った詐欺行為が発覚した場合、犯人は通常の国の法による裁きに加え、魔術の能力を封印される。つまりこの魔剣モドキを作った人間もばれれば魔術師としての将来を失うことになる。

ま、実際には『意図的な詐欺』であることを証明するのは難しいからそう簡単に検挙されることはないだろうが。

そんな詐欺行為に身を費やすよりは単純に盗賊シーフとして働く方が効率的だからどちらにせよ俺には関係ない話だし。



魔剣につける術回路も魔具の術回路と同じで魔術院から保護されている。

魔剣を作る鍛冶師は自分で術回路を開発するか、自分の師匠から使う許可を貰って師匠の術回路を使わせてもらうことになる。

今回は実習なのでスタルノが簡単な術回路を使わせてくれることになっている。

そんでもってフリーハンドで直接剣に描くなんていうのは絶対に無理なのでガラスの板の上で作ってそれを剣の上に置いて接合せよと言われた。


で。

ガラスの上で作ろうとしているのだが・・・。


「だ~~!!!!この幅をはみ出しちゃいけないなんて、無理だ!!」

アレクの怒声が上がった。

さっきから俺たちは皆怒声か悲鳴をあげっぱなしだ。

フリーハンドで術回路を作るなんて、無理だって。

筆を使うと言うのならまだしも、鍋から垂らしてなんて・・・。


10度目の失敗を鍋に戻そうとため息をつきながら集めていて、ふと手が止まった。

スタルノがフリーハンドでやっていたからって、俺たちも同じことをしなければいけない理由は無い。

魔剣という扱いの荒っぽい魔具の術回路だから薄くても太いのが必要なのなら、薄くて太いワイヤーを作ればいいじゃないか。


もっと早くこれを思いつかなかった俺らって・・・バカ?

俺たちに『作れ』と指示した時にタランがにやにや笑っていたのって・・・俺たちがフリーハンドでやらなきゃいけないと思いこんでいるのが分かっていたから?


「おい。別に太くて薄いワイヤーを作ってやったって、フリーハンドでやったって結果は同じじゃないか?」

他の3人に声をかけた。


「「「あ」」」



「思ったより早かったな」

ワイヤーで作った術回路を持って行った俺たちは、にやにや笑いながらスタルノに言われた。


「フリーハンドで描かなきゃいけないって思いこんだのって俺たちだけですか?」

シャルロが尋ねた。

こういう質問をしても拗ねているように聞こえないところがこいつの人徳だよなぁ。


「いや。今まで勝手に誤解しなかった班はいないな」


勝手に誤解って・・・。

わざと誤解するように誘導したでしょう。

普通にワイヤーでやるなら『どれだけ時間がかかっても構わん』なんて言わない。だから初日の実演と相まって誤解しちまったんだ。


「普段からああいう風にフリーハンドでやっているんですか?」

アレクが冷静に尋ねた。


「実習班が来る時はな」


人が悪いぞ!

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