表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シーフな魔術師  作者: 極楽とんぼ
卒業後4年目
609/1300

609 星暦555年 橙の月 11日 忠誠心?(10)

「おう、久しぶりだな。

どうしたんだ、態々俺と会いたいなんて」

東大陸に来た際には小間使い的に色々領事館で使われているバルダンとは話していたし、彼経由でゼブにも土産としてシャルロお勧めの焼き菓子を渡していたが、特に用が無いので変に頼まれ事もされたくないしという事で直接会いには来ていなかった。


それが態々到着した当日に連絡を取ったのだ。

ゼブに聞かれても不思議は無い。


「最近アファル王国でこれが使われる事件が多くなってね。

知り合いに相談されたもんだから、解除用魔具《解決策》を入手するがてらに現地の情報も入手したいと思って」

盗賊シーフギルドから渡された未使用の精神汚染用魔具と、先日パストン島で購入した(マジで普通に店で売っていた!!)解除用の魔具を見せながらゼブに答える。


「あ~。

それか・・・。

そう言えば、お前のところの大陸ではあまり使われていないんだったか?

南の方の国は早くから対処していたから忘れてたわ」

肩を竦めながらゼブが言った。


ゼブがアファル王国側の人間に危険な魔具について警告しなければならない義理は無いが、警告しておけば対応策の解除用魔具を大量に高めに売りつけることも出来ただろう。


今となっては普通に店で買える事が分かっているし、なんといっても魔術回路が単純なのでアファル王国側で自作できるからゼブが儲けるのは難しい。


「何か最近になって急にアファル王国側で使われるようになったんだ。こちらの魔術師関係の団体の禁忌のリストに入っていたのに、そんなに流通している物なのか?」


・・・考えてみたら、最近急にというのは王太子の結婚式が終わって探知網が解除されたからか?

あの探知網だと登録していない魔具はひっかかる仕組みになっていたはずだ。


基本的に東大陸の魔具は全て登録されていないから全部引っかかると警告が発せられていたはずだから、持ち込む側も自粛していたのかも知れない。


もしくは、持ち込もうとして引っかかって没収されていたか。

魔術院の方で没収した魔具に、この精神汚染用魔具が含まれていたかアンディに確認してみるか。


没収していたのに危険に気付いていなくて後日蔓延させたなんてバレたら、魔術院の方もちょっと不味いんじゃないかね。

幾ら比較的単純な構造で出力も低めだからあまり危険に見えない魔具だとは言え、没収していたのにちゃんと調べずに結婚式の後に返していたのだとしたら危機感が足りなすぎだろう。


まあ、王太子の結婚式で猛烈に忙しかったのは王宮側も分かっているだろうから、あまり強く文句は言わないだろうが。


ジルダス(この街)の特産品は香辛料と遺跡関連の骨董品だ。

交易で稼いでいる海沿いの他の都市もそれなりに特産品があるんだが・・・内陸の山の麓にヤバい魔具の輸出しか収入源が無いザッファっていう小さな都市国家・・・と言うか町モドキがあってね。

そこから大量に入ってくるからあちこちに流れるんだよ」

ため息をつきながらゼブが答えた。


西大陸では幾つかの王国が昔から存在し、時折戦争でそう言った国が消えたり新しく建国されたりするが基本的に話し合いの相手としては国家に数が限られる。


東大陸は何故かそういった都市を複数内包するような王国は存在せず、基本的に都市国家が緩い同盟・敵対関係をもつ形になっている。


西大陸と交易をしている沿岸地域は海を離れると乾燥地帯が多くなり、国家規模の人口を支えるだけの食糧生産が難しいからだろうとアレクは言っていた。


大陸の真ん中を北から南へ連なっている山脈の向うはもっと緑豊かで大きな国があるという話だが、何分そちらへの交通の便が実質存在しないことで東大陸の『王国』は御伽噺レベルに近い扱いになる。


ちゃんと存在はするらしいのだが、山道をロバで数週間掛けて越えなければならないような地理関係だと、交易は実質不可能なので西大陸の人間にとっては山脈の向うは存在しないに等しい。


それはさておき。

どうやら今まで取引に関係してこなかった内陸の都市が禁忌関連の魔具を特産品にしている迷惑なところがあるようだ。


「そんな迷惑な都市はどこかが攻め滅ぼしたりしないのか?」


禁忌関連の魔具をガンガン製造販売していたら、どこかの有力者の恨みを買いそうなものだが。


「時折どこかの逆鱗に触れて徹底的に叩かれるんだが・・・なんと言っても不便な場所だし、碌な物も育たない場所だからな。

誰もそこに残ろうとしないんだよ。

そうすると殺されなかった住民がそのうち戻ってきてまたヤバい魔具を作り始める。

禁忌関連の魔具なんぞ普通に造ろうとしたらすぐに街から追い出されるからな。

沿岸の街で浮浪者になるよりは、ザッファでヤバい魔具を作って他の都市に売りつけて必要な物を買う方がマシな生活が出来るから止めないんだよ。

何度か潰されているうちに大分と技術レベルが落ちてきて、最近の魔具は禁忌関連とは言え効果がしょぼいのが殆どになってきたから周辺都市もあまり気にしなくなったって言うのもあるし」


どうやら町全体の産業が禁忌関連の魔具製造なせいで、町中の人間を根絶やしにしない限り誰かがまた再開してしまうらしい。


どこに行ったってよそ者は信頼されなくて生活は苦しい。

禁忌関連の魔具を作るので有名な街の出身だなんて言ったらますます受け入れられないだろう。


そうなると生きていくのには元の産業に戻るしかないということになるのか。


なんとも困ったもんだ。


「ショボいと言っても、精神汚染なんてヤバいだろうに」

繰り返し使ったら狂信的になるなんて精神に変な負担が掛かっている証拠だろう。


「そんなちゃちな魔具で解除できるんだぜ?ショボいだろうが。

昔の本物は一度使われたら死ぬまで解除できない様なのもあったって話だぜ。

今のじゃあ放っておいても半年程度で勝手に抜け落ちるか、繰り返し使って発覚するかのどちらかなんだ。

他のはもう少し危険なのもあるが、沿岸都市に住み着いて対処用の魔具を売り出すザッファ出身の人間もいたお陰で脅威度も下がったからな」

ゼブが肩を竦めた。


「・・・そのザッファからよく流れてくるヤバい魔具とそれに対する対処方法の一覧表を買えるか?」

こちらの人間ですら迷惑だと思っているようなのに根本的な対処が出来ていない問題なのだ。


どう考えてもアファル王国が何とか出来る問題ではないだろう。

としたら、対処方法だけでも入手して手をうっていくしかなさそうだ。


アンディが嫌がりそうだな・・・。

まあ、禁忌関連の魔具用の解除や探知の為の魔具をガンガン作って売りまくるという手もあるかもだが。


・・・考えてみたら、そういう対処品の魔術回路もこっちの魔術師団体に特許登録されているのか?


だとしたら対処する為だけに金を払う羽目になって、アファル王国的にはかなり踏んだり蹴ったりな感じだな。

以前シャルロが蚤市で手に取ろうとしたヤバげな魔具は、繰り返し叩かれて技術レベルが落ちる前の昔のザッファで作られた危険度の高い骨董品だったんですね〜。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 件の集団に限れば、国家というより集落なような。 というか、「呪物に近い魔道具」って制作方法は継承されているんでしょうか?(滝汗) [一言] 都市国家と言われて古代ギリシャを想定していた…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ