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シーフな魔術師  作者: 極楽とんぼ
魔術学院1年目
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006 星暦549年 紺の月 3日 魔法剣士も悪くない?

初めての小説です。寝る前とか電車の中とかで次の話を考えながら、楽しんでいます。皆さんも楽しんでいただけると幸いです。

魔術師になる勉強と言うのは、想像していたのよりもずっとハードだった。

何故か、主に魔術に関係ない方面で。


◆◆◆



魔術の勉強や一般教科もそこそこ馴染んできたと見たのか、担当教師に今度は新しく『体育』の授業へも行くよう言われた。

『体育』???

体の教育??


魔術師なんて、知的労働者の最たるものだと思っていたのだが・・・。

実はそうでもないらしい。


そう言えば最初にちょろっと説明されていたが、全ての魔術師には非常時に軍に同行して戦う義務が科されているんだそうだ。

しかも、戦争なんていう大がかりなものだけではなく、山賊退治なんて言うレベルの話でも場合によっては呼び出される。


ま、大抵は金で解決できる、冒険ギルドに登録しているような肉体派の魔術師が行くらしいけど。


だが、本格的な戦争ともなれば問答無用で戦場へと駆り出される。

だから全員、乗馬の技能は必修。

また、一応身を守れるように護身術も実は必修だったり。


田舎に住んでいればどんな貧乏人でもとりあえず馬に触れる機会があるのだろうが、何といっても都心のスラムで育ってきた身。

当然、乗馬の経験なんぞない。

仕事の前後に貴族の厩に隠れさせてもらったことは何度かあるけど。


はっきり言って、馬での移動があれほど尻が痛くなるものだとは思わなかった・・・。



だが。

一番ショックだったのは剣の授業かも。

自分の身を守ることには、それなりに自信があったから。



剣の授業に行った先では、何人かの生徒が剣を持ってお互いに打ち合い、ソード・マスターが時々注意を与えていた。

「新入りか。まず、腕を見せてもらうぞ。ダレン!」


同い年ぐらいの少年が近付いてきた。

俺よりも少し大柄と言ったところか。

「打ち合って見せろ」


スラムは、弱肉強食の世界だ。

自分の身を守れなければ、全てを奪い去られる。

俺の一番の強みは人に見られずに動く技能だ。だから戦う状況に追い込まれることはそれ程多くはなかった。

どんなに強くなっても何かの拍子に負ける可能性はゼロではない。だけど、相手に気付かれずにすり抜けられれば無事に帰れる確率は100%になる。


だから用心に用心を重ねて密やかに行動をしてきた俺だが、それでも逃げられない状況と言うのは時としてはあり、今までも刃で自分を守ってきた。


それなりに自分を守る能力には自負があったのだが・・・。

自信を持って繰り出した最初の一撃は、あっという間に跳ねあげられ、剣を弾き飛ばされた。


「もう一度!今度は油断するな!」


跳ね飛ばされた剣を拾い上げ、しっかりと握り直す。

どうも、相手の方が剣のスキルがあるようだ。

だが、スラムの厳しい世界で、俺の反応速度は誰よりも優れていた。それを最大限に使っていこうじゃないか。


物理的な眼ではなく、心眼サイトで相手を捉える。

体を動かす為には必ず筋肉に力を入れなければならない。それを、『視る』ことで相手が実際に動き始めるより一瞬早く反応できる。元々の反射神経の早さと相まって、俺の反応速度はスラム一だった。


俺が動かなかったので、ダレンが軽く最初の一撃を出してきた。

それを避け、こちらから肩を狙って打ち出す。

あっさり一歩下がることでそれを避け、ダレンの剣がこちらの腕を狙ってきた。


相手の一撃を避けながら反撃。

フェイント。攻撃。回避。また攻撃・・・。

だんだん動きが速くなってくる。


ダレンは一歩動くか軽く剣を当てることで俺の剣をそらして攻撃を避けているのに対し、俺はもっと大きく動かないと避けられないし、無駄な力を使って剣を止めている。

悔しいながら、腕の違いは明らかだった。

5ミルもしない間に俺は肩で息をしていたのに対し、ダレンは殆ど汗をかいていない。


こんなに技能というものが違いを生むとは。

悔しい。

しかも魔術師の卵ごときに全く歯が立たないなんて・・・!


キン!!


いい加減イライラしてきて、焦りで振りが大きくなった俺の剣が飛ばされた。

とりあえず後ろにバック転して、ダレンの間合いから離れ、見ていたソードマスターの後ろに逃れた。

授業で逃げる訳にはいかないけどさ。

本当の戦いは、死んだら負け。

死ななければ逃げるのはありだ。

ここで剣を首に突き付けられて降参させられるのなんて、我慢できん。


ま、ダレンもそれを分かっていたのか直ぐに追ってきたが。


「そこまで!」

ソードマスターの声にダレンが剣を下げた。

「中々いい反応速度だ。全然基礎がなっていないが、鍛えればそれなりになりそうだな。ダレン、基礎の動きを教えてやれ」

ソードマスターがダレンに指示を出して、他の生徒の方へ去って行った。


「ダレン・ガイフォードだ。2年生だが、剣術の授業でアシスタントもやっている。よろしく」

「ウィルです。よろしくお願いします」

握手したダレンの手は、剣だこで固くなっていた。

何だって魔術学院の生徒がそんな剣だこが出来るほど肉体派なんだ??


「見事な反応速度だな。基礎を学んだら剣士としても十分やっていけるぞ」

「俺は魔術師の卵のつもりだったんですが・・・」

折角、命のやりとりを毎日するようなスラムから脱出できるんだ。

俺のモットーは『目指せ頭脳労働者!』だ。


だが、俺のやる気のない返事にも、ダレンはにやりと笑った。

「魔法剣士の方がただの魔術師よりも潰しが利くぞ?」


なるほど。

『魔法剣士』なんて名称で名前を売ったら戦うことがメインになってしまいそうだが、名前は魔術師でも、能力は魔法剣士ってのはいいかも。弱っちい魔術師だと思って油断して襲ってくる連中をたたきのめしてそいつらの財布をいただいてもいいし。


うっし、頑張ろう。



ちなみに後でシャルロに聞いたら、ダレンはアファル王国でも有数の軍閥一族の次男だったということが判明。ガイフォード家に嫁いだ魔術師の母の血が出たので魔法剣士を目指して頑張っているらしい。


どうりで!

ただのもやしモドキな魔術師の卵に、この俺様がコテンパンにやられるなんておかしいと思ったよ。

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