591 星暦555年 黄の月 12日 虫除け(11)
「さて。
次は家用の設置型魔具だな。
虫除けの方は家全体をすっぽり覆うから障害物を避ける必要はないが・・・殺虫の術の方はある程度以上のサイズの障害物を避けさせた方が良さそうかな?」
携帯用の売り出しに関する細かい点を話し合った後、俺たちは携帯型に話が逸れる前に取り組んでいた設置型の開発に戻ることにした。
幸い携帯型の効率化の段階で、結界を地面の上で球形に展開するとなんで消費魔力量が多くなるのかが解明できたので、それなりにこちらも進展したと言って良いかも知れないが。
「殺虫も対象の動き対応と言うよりは浸透タイプだろうけど、一応実際に起動して試してみようか。
ただ、家みたいに大きなサイズで障害物を避ける設定にするとどう影響するか、ちょっと気になるね」
シャルロが頷きながらさり気なく棚に置いてあるクッキー缶へ手を伸ばした。
おい。
ついさっき(多分)朝ごはん食べたばかりだろうに。
それだけ甘い物を食べて、なんで太らないのか本当に不思議すぎる。
虫歯はごめんだし、太って体が鈍重になっても困るから、俺は多少なりとも空腹感がある時以外はつまみ食いはしないことにしているのだが・・・アレクも意外にクッキーへ手を出す。
甘い物爆食いのシャルロ、そこそこ食べるアレク、あまり食べない俺で、10年か20年後に体形がどうなっているのか、興味深いところだ。
まあ、魔術師は魔力を使うことでそれなりに体内エネルギーを消費するから、魔術関係の仕事さえ続けていればそれ程太らない可能性も高いが。
食事制限でダイエットする代わりにひたすら魔石へ魔力を充填して売りに出せば、収入が得られる上に痩せられるのだから、魔術師って得だよな。
その代わり戦場なんかで食料がぎりぎりなのに魔力を使いまくると、げっそり体重と体力が落ちるらしいが。
もしも戦争に駆り出された場合なんかは、脂質分と糖分をがっつり詰め込んだ上に長持ちする甘さたっぷりのブランディケーキでも大量に持って行くのがお勧めだと以前ダレンに教わったことがある。
俺は元々魔力がそこまである方じゃあないから、戦争が起きたとしてもがっつり魔術を使う役割よりも、以前のシェイラの兄貴関係の時の様な救出とか探索系の作業が割り振られる可能性が高いだろうから、ブランディケーキは必要ないと思いたいところだ。
戦争なんて起きないのが一番だが。
そこら辺はシャルロの『ウォレンおじさん』あたりに頑張って貰おう。
幸いにも、運とウォレンおじさん諸々の努力のお陰で頭のおかしい隣国が無くなって金勘定が第一なザルガ共和国になったので、ちみちみした争いや情報戦っぽい事は頻発するにしても、大々的な戦争は多分起きない可能性が高いだろう。
ザルガ共和国は製造業よりも物を動かして交易で儲ける経済だから、武器を売って戦争で儲けるという収益構造じゃあないらしいし。
それはさておき。
設置型の方だ。
「取り敢えず、まずは障害物回避の魔術回路を組み込んだ虫除けと防御結界と、組み込んでないのとを造って作動させた際の魔力消費量にどの程度の違いが出るかを確認しよう。
それが済んだ後は、障害物回避の魔術回路を組み込んだ殺虫の試作品を造って魔力消費量の違いを確認だな」
アレクが黒板モドキに必要な試作品とそれの仕様を書き上げ始めた。
「そうだねぇ。
あと、障害物回避の魔術回路を組み込んだ際に、箱とか引き出しの中とか、扉を閉めた食糧保存庫の中までちゃんと殺虫の効果が行き渡るか調べないと。
扉を閉めた部屋が全部『障害物』扱いで中の虫が排除されないとなると、大問題だよ」
シャルロが2枚目のクッキーに手を伸ばしながら指摘する。
確かに。
ネズミ避け機能をつけないのだ。
箱や食糧保存庫を全部開けておかないと殺虫が出来ないとなると、虫の排除とネズミからの被害との悲惨な二択なんて事になりかねない。
「・・・まず、適当にダンゴムシでも捕まえて箱に入れてパントリーに置いて、扉を閉めた状態で障害物回避型の殺虫の魔具を動かしてみようぜ」
ほぼ確実に、ダンゴムシの方がゴキブリや百足よりもあっさり死ぬとは思うが・・・ダンゴムシがちゃんと死んでいたら、大きめの虫に関してはアレクの知人にテストしてもらおう。
ダンゴムシですら死んでなかったら、障害物回避型は少なくとも殺虫の術には使えない。
「そうだな。
彼だったらテスト対象も簡単に入手出来るだろうし」
「そうだね、やっぱり本格的なテストは専門家に頼んだ方が良いよね!
アレクとシャルロが即座に同意した。
ゴキブリや百足を、箱に詰め込むために手に取るのはごめんなのは3人共通の想いのようだ。
障害物の判定が、どの程度の気密性で為されるかが問題ですかね。
箱の中はまだしも、パントリーの中がダメでは話になりませんし。