058 星暦550年 翠の月 12日 実演
鍛冶屋って暑い・・・。
◆◆◆
かれこれ2刻以上鍛えられてきた鉄片は剣の形に姿を変えていた。
ただし刃が無いが。
これから研ぐのか?
つうか、まだ魔力が付加されていない。
「こんなところか」
ふうっと息を吐き出しながら鍛冶師が立ち上がる。
じゅっ!
桶の中に貯められた水の中に剣が突っ込まれた。
剣をそこに置いたまま、今度は小さな鍋になにやら木の実やら銅線、魔石の欠片その他諸々を入れて炉に入れて溶かしている。あれで術回路を作るのかな?銅線と砂は分かるが木の実を何故入れるのか、かなり不思議だ。
まあ、卵の殻と砂を入れることでガラスが乱反射するようになるんだ。木の実を入れることで何か効果があっても不思議ではない。
鍋の中のモノが真っ赤に溶けたら、バケツから剣を取り出す。
まだ大分熱が篭っているのか、見る間に表面の水が蒸発していた。
水にも何か足してあるのかな?何か表面に光沢がついた気がする。
剣を机の上に平らに固定し、鍋の中の液体を細心の注意を払って垂らし始めた。
まじっすか?
フリーハンド??
下書きもせずに鍋から垂らすか、普通????
こちらの驚愕を気にした風も無く、スタルノが剣の上に術回路を描いていった。
信じらんねぇ~。自分の人差し指の長さ分も無い幅の上でに鍋から垂らした液体で思うとおりの模様を描くなんて。
息を潜めて覗き込む俺たちの目の前で、術回路が出来上がった。スタルノが軽く魔力を通したら、剣全体が火に包まれた。
おおお~!
見物していた学生から感嘆の声が上がる。
そして今度は剣を裏返してまた術回路を描く。
最後に全体を灰にくぐらせていた。
ああやることで術回路を固定化出来るのか?
何をやっているのか説明して欲しいところだが・・・。
真剣に集中している姿を見る限り、質問をしたらぶん殴られるか無視されるかになりそうだ。
別の鉄片を取り出してきた。
また炉で熱している。
それが真っ赤になったら半分に折り曲げ、灰の中から先ほどの剣を取り出して間に挟んで叩き始めた。
カン、カン、カン、カン、カン、カン。
カン、カン、カン、カン、カン、カン。
最初のときよりも音が軽いが、ペースが速い。
そうか、レイピアなのかと思ったら、更に鉄片を重ねることで術回路を保護し、サイズも標準的なものにするのだ。
というか、標準的なサイズの剣って元々鉄片を幾つか重ね合わせているのかな?一様な素材で出来ているよりも、合わせた素材の方がしなりが可能になり、剣として実用的になるかもしれない。
カン、カン、カン、カン、カン、カン。
カン、カン、カン、カン、カン、カン。
カン、カン、カン、カン、カン、カン。
カン、カン、カン、カン、カン、カン。
カン、カン、カン、カン、カン、カン。
カン、カン、カン、カン、カン、カン。
・・・鍛冶について色々考えている間もずっと鍛冶師はひたすら剣を鍛えていた。
面白い。よく、よく見ていると、段々剣が平べったく長くなっていくのだが術回路は変わっていない。
しかも剣の中の気の流れは段々一方方向に統一されつつある。
しっかし。
何だって鍛冶っていうのは叩いて鍛えねばならないんだろう?
同じ形の金型に入れて溶かし込んでも、たぶん駄目なんだろうなぁ。そんな作り方は超安物の場合にしか使われていないと思うが、何が原因で金型を使って作る剣が駄目なのか、教えてもらいたいところだ。
一体これってどのくらい時間がかかるんだ?
実習は5日間。初日は見ているだけで終わりだというのは想定していたが、1日で出来ないとなると俺たちが実際にやってみる時間が減るんだけど。
スタルノが槌を置いたのは更に3刻後だった。
「今日やって見せたのが、通常の魔剣の作り方だ。芯に魔力を伝達しやすい弾力性のある鉱石を入れる。無論むき出しじゃあ一度剣を合わせたら術回路が駄目になるし剣として実用的ではない。堅い鉄片を合わせることで剣が強くなり、弾力性のある芯があることで堅い鉄も割れにくくなる。だから、魔剣というのは最低限でもこのくらいのサイズになる。
もしもレイピア型の魔剣があったら買うのも贈るのも、やめた方がいい」
スタルノが簡単に説明した。
「今日はここまででいい。明日から鉄片をやるから鍛えるところから始めるぞ」
3行書くごとに意識が朦朧とするぐらい、眠いです・・・。
とりあえずここで一区切りしちゃいます。
7月20日:youtubeで刀を作っているビデオを見て、少し修正。