057 星暦550年 翠の月 12日 男のロマン?
男のロマンってなんだろう?
この場合、恋愛感情とは関係ないモノの話なのだろうが・・・。
冷めていてあまり夢の無い俺には理解の難しい話だ。
◆◆◆
「魔剣こそが男のロマンだ!!!」
俺たちは、目の前で鉄の塊を振り回しながら暑く・・・ではなく熱く語る男をあっけにとられて見ていた。
今回の実習は魔剣作り。
魔具の中でも特に需要が高い、あれだ。
一般的に、『魔剣』と言う場合、普通の剣に魔法剣士が自分の魔力を帯びさせて使うのを指す場合と、剣自体に魔力が込められてあり、それを普通の剣士(魔術師でもいいけど)が使って剣技に魔力を付加する場合を指すのと二通りある。
今回作るのは、勿論後者。
普通の鍛冶師が魔力を帯びた剣を作るのは、難しい。
まず、自分で魔力を込める能力がないから魔石(スポンサーが滅茶苦茶リッチな場合は光石もあり)をはめ込んでそこから魔力を引き出し、剣を鍛える過程で術回路を剣の中に彫り込むなり打ち込むなり埋め込むなり、何らかの形で内包させなければならない。
しかもその術回路がちゃんと機能するかどうか、魔力を視ることが出来ないので確かめにくい。
だからちゃんとした魔剣というのは か な り! 高い。
魔術師が鋼を鍛えて魔剣を作るのはそこまでは難しくない。
何といっても魔力が視えるし。一番簡単な方法としては自分の魔力を埋め込むことだって可能だし。ただし、余程魔力がある人間じゃない限り、鋼を鍛えている間に注ぎこめる魔力の量なんて限られているからしばらくしたら魔力切れが起き、魔石を使っている訳ではないので魔力の入れ直しは難しい。
だから魔術師が人に売る魔剣を作る時も、良心的ならば魔石を使うことが多い。
ただねぇ。
まず、鍛冶師になろうと思う魔術師があまりいない。
しかも筋肉を鍛えて最高な状態の剣を作ろうと熱意を持っている魔術師は更に少数派。
となると、魔術師が作った魔剣って『魔』の部分は良くても『剣』の部分の鍛え方がお粗末で、剣として使おうとするとあっさり折れる粗悪品も多かったりする。
以前は手っ取り早い金もうけの手段として魔術師が魔剣を作ることが多かったらしいが、最近では売る前に普通の鋼の剣との打ち合いをして強度を確認することが通常の商習慣となってきたお陰で、魔剣作りに手を染める魔術師は大分減ってきたらしい。
が。
目の前の男はその少数派らしい。
しかも、かなり熱意を持った。
「俺は魔剣を20年鍛えてきた。よぼよぼになって槌を持ち上げられなくなるまで、続けるつもりだ。俺の魔剣はただの剣としても一流だし、魔剣としては超一流になりつつあると思っている」
じろりと魔術師の卵たちをにらみながら男が続けた。
「魔術師なら魔剣を簡単に作れるということで剣と言うのもおこがましい様なシロモノを作る野郎がいるが、仮にも俺のところに実習に来るんだ、そんなことは許さん。
ここでしっかり魔剣作りの一片でも目に焼き付け、身につけていけ!」
ははは。
・・・なんか、出来そこないな魔剣モドキを作って売ったら後から追っかけてきて殴られそうな雰囲気だ。
「スタルノ氏は超一流の魔剣鍛冶師だ。何日か実習に通っただけで盗めるような技術じゃあないが、とりあえずここで一流の鍛冶師とは何か、魔剣とはどうあるべきなのかを学んでくれ」
ニルキーニ教師が話を結ぶ。
「邪魔になるから、そこに座って見ていろ」
スタルノが部屋の端にあるベンチを指さし、炉へ向かい、手に持っていた鉄の棒モドキを中へ突っ込んだ。ふいごで煽られた炎が鉄を真っ赤に熱するとペンチで鉄を持ち上げて、鉄床に置き、槌で叩き始めた。
カン、カン、ガン。
カン、カン、ガン。
カン、カン、ガン。
また炉へ戻し、真っ赤になったら取り出す。
カン、カン、ガン。
カン、カン、ガン。
うう~む。
実習って剣を実際に鍛えるところからやるんか。
てっきりそこら辺で売っている剣に術回路を彫り込む方法でも教えてくれるのかと思っていた。
ま、男のロマンだと言う話だし。
ここは一つ、真剣にやってみますか。
打算と希望を兼ね合わせて将来のことを考えるのにも疲れてきたところだし、ちょっと肉体労働で気分転換だ!
将来について悩むのはとりあえず保留することにした主人公。
次回は本格的に剣作り。
とは言っても現実の剣の鍛え方とはあまり関係ないご都合主義なプロセスになると思いますが、『魔法』ということで許して下さい。(笑)