567 星暦555年 翠の月 4日 人探し(3)
児童養護所の周りには下水道に繋がるような通路も穴もなく、養護所の建物の中も棚や屋根裏やその他の子供が隠れられそうな場所を全て心眼で探したが、シャナちゃんはいなかった。
養護所の左隣はそこそこ大きな商会の本店、右隣は運搬ギルドの建物だったが、どちらも敷地と建物の中を虱潰しに外から確認したが子供は隠れていない。
商会の方は隠し金庫や隠し部屋が複数あったが。
隠し部屋の方には確かこの国では許可が無ければ取り扱ってはいけない物が隠されているようだったが・・・まあ、俺の知ったことではない。
隠しているということは無許可で扱っているんだろうが、まあそれ程危険な物ではない。
単に利幅が大きいから先に取り扱っていた連中が競争を減らすために政治的に取り扱いを制限させまくっただけの物だ。
一応違法だから正直に取引を報告していないだろうし、それに関して脱税もしていることになっているだろう。
なので金額によっては誰かが忍び込んで裏帳簿を写しているところを目撃されたら口封じを考えるかもしれないが・・・隣に養護所があるのに子供が目撃して問題になるようなことはしていないだろう。
・・・シェフィート商会とかもこういう厳密に言えば違法な商品を扱っているのかね?
それはともかく。
運搬ギルドには横になって動かない人影が幾つかあったがどれも子供ではない。多分夜通しかけて何かを運んだ運搬人が寝ているのだろう。
運搬ギルドも隣の商会もそれなりに人の出入りがあるから、養護所の子供たちの話を聞いても何も出てこなかったらあちらの話も聞いて回った方が良いかも知れないな・・・。
そんなことを考えながら養護所に戻ったら、ちょうどアレクとシャルロは子供たちから話を聞き終えたところだった。
「どうだった?」
「この建物にも両隣の建物にも子供は隠れても囚われてもいないな。
そちらはどうだった?」
尋ねてきたシャルロに答えたところ、シャルロはため息をつきながら首を横に振った。
「僕の方は何も見ていないようだった。
アレクが担当した子供たちはどうだった?」
意外にも、アレクは首を横に振らずに何やら紙にペンを走らせていた。
「アジーラという女の子が、妙な馬車を見たんだ。
家紋はついていなかったが、あれは貴族のお忍び用の馬車だったと思う。
そんなのが子供がいなくなった日にたまたま通りかかったなんて言うのはちょっと偶然にしては出来過ぎな気がするだろう?
中にいた女性も見たのだが・・・残念ながら私には見覚えが無くてね。
似顔絵を描こうとしているのだが中々難しい」
昔は貴族が街を歩き回るのにもお忍びスタイルで動いていたらしいが、今では一般人と貴族の経済力や権利の差はそこまで大きくないので、単に買い物に行く程度のことでお忍びする必要はない。
まあ、下手に誘拐されたりしないように護衛ぐらいはつけるだろうが。
流石に王族レベルだったらお忍びになるだろうが、それこそ護衛についている近衛が子供の誘拐なんぞ止めるだろう。
つまり、お忍び用の家紋をあえてつけない馬車を使うというのは、人に見られたくないことをやっているということだ。
ここら辺は愛人を住まわせるような区域ではないことを考えると、確かに怪しい。
商人が秘密裏に人に会おうとするのならばアレクが『貴族のお忍び用の馬車』というようなタイプの馬車を使わないだろうし。
そんなことを考えていたら、アレクが似顔絵を描き終わってこちらに示してきた。
・・・俺が描く似顔絵よりはましだけど、アレクもあまり絵を描く才能は無いな。
「アジーラちゃんだっけ?
貴族なら僕が知っている可能性もあるから、ちょっと彼女の記憶を見せてもらってくるね」
優しいシャルロは似顔絵の出来に関しては触れず、子供たちが遊んでいる庭の方へと向かった。
「見た映像を紙なり魔石なりに記録できる魔道具を作れたら便利かもな」
元々、術としては魔術師の頭の中にある映像を人に見せる方法はあるのだ。
考えてみたらアレクもそれを使えばよかったのに。
まあ、他の人にも見せて回るとしたら紙に描いてある方が手軽だから試したのかな?
それはともかく。
頭の中にある映像を外に出す術を魔術回路になんとか落とし込み、最近開発してきた記録用魔道具に接続して使えるようにしたらこういう目撃者の証言を他の人間にも見せられるように出来て、便利そうだよなぁ・・・。
目撃者の記憶を媒体に出力できるようになったら滅茶苦茶便利ですよね~。