551 星暦555年 紺の月 24日 総動員(8)
魔術院の総務担当長老の視点です。
>>>サイド ガルヴァ・パズール
「何とか無事に接続不備の修復が全部終了しました。
シャルロ・オレファーニの精霊による洗い流し作業もすぐに始めるので、真夜中までには終わるだろうとのことです」
疲労困憊で目の下に大きな隈が出来たアンディ・チョンビが報告に現れた。
自分も最高責任者として魔術院に残っていたが、仮眠室で軽く休んでいる。実務責任者だったアンディは一睡もできていないようだ。
実質丸2日働き続けだったのだ。
明日は代休をやらんとな。
「うむ。
思いがけない展開だったが、どうやら無事に終わったようで良かった。
今回は精霊の干渉について知らねばどれだけ時間がかかったか分かったものではない。
お主と、ウィル・ダントールの大手柄だな」
精霊が薙ぎ払うなどということは普通ならば想像もしないことだし、痕跡も殆ど残らない。ウィル・ダントールが精霊から教えられて伝えてくれてなければ、今回の探知網の大量の接続不備に関しては魔道具が故障したのか、それとも不穏な勢力による破壊行動なのかと大騒ぎになっただろう。
しかも急いで接続を修復しようとしても修復した傍らからまた薙ぎ払われていたらいくら時間をかけても追いつかず、下手をしたら結婚式の為に探知網を設置すること自体を断念する羽目になったかもしれない。
本当に、ウィル・ダントールが精霊の加護持ちだったことにはどれだけ感謝をしても足りないぐらいだな。
「次の賞与査定の際には是非そこのところを考慮してくださいね。
ウィルに関しては、元々夜の確認作業に関する報酬の一部として『デザルフォー』で昼食を提供する話になっていたのですが、この際もう一つランクアップしても良いですか?」
アンディが嬉しそうに提案してきた。
ふむ。
ウィル・ダントールに対する報酬か。
勿論金一封も出すが、この際魔術院に協力することへの報酬を他では得られない良いモノにしておく方が軍からの引き抜き防止にも良いかもしれないな。
先日の汚染問題の際にも一早く問題を発見して魔術院に話を持ってきたのは彼だったと聞く。
部下のアンディと仲が良く、問題があったらさっさと話を持ってきてくれているようなので無理に魔術院で働くよう圧力をかける必要はないだろうが、軍に所属されると色々と面倒になるかもしれない。
「今回もだが、前回の汚染問題の際の早期発見も大手柄だったからな。
『ドリアーナ』の個室を予約しておこう。
明日の昼で良いのか?」
ドリアーナは価格だけでなく、格も超一流で得意客の紹介なしにはどれほど金を持っていようと予約を取ることは出来ない。
しかも個室であればどんなクラスの人間であろうと居心地よく食事できるように心を籠めて対応してくれるので、例え下町出身のウィル・ダントールでも気持ちよく食事を楽しめるだろう。
軍部だって上層部であれば予約を取るコネは十分あるだろうが、軍属として雇った人間にどれだけ高給を払うにしてもドリアーナでの食事を提供するというのタイプの贔屓は出来ないはずだ。
「ドリアーナですか」
ひゅう~と驚いたように息を吐きだしたアンディが呟いた。
「これからも、前回の汚染問題や今回の精霊の干渉のような思いがけない問題に気が付いた際に、早急にお主にでも相談することで魔術院に知らせれば、またそこで食べるかもしれんと言っておいても良いぞ?」
一度きりではないと知らせておく方がより効果的だろう。
「分かりました。
ちょくちょく会って他にも何か気になることが無いか、確認しておくようにもします!」
どうやら自分もおこぼれにありつけることに気が付いたのか、アンディがやる気満々に答えた。
・・・あまり下心満載だと相手に引かれるかもしれないが・・・まあ、魔術学院からの友人だというから、大丈夫だと期待しておこう。
「そう言えば、前回の即位式の時に探知網を使った際は精霊が寄り付かなくなったとのことですが、やはり風が吹かないとそこまで暑さに違いが出ますか?」
立ち上がって部屋を出ようとしたアンディがふと振り返って訊ねた。
即位式など、一生に1度しか参加しない可能性が高いので記憶に残っているが・・・確かにあの年の夏は酷かった。
ある意味、即位式よりもあの暑さの方が記憶に焼き付いている。
「うむ。
日中の日の強さはそれほど違いは無いと思うのだが、風が吹かないといつまでたっても熱が逃げない感じでな。
最初はそれほどでもなかったし、雨が降るよりはましだと皆で言っていたのだが・・・最後の方では熱に倒れる人間も続出して大変だった。
暑さのせいで魔術を使うのも難しくなったように感じたのだが・・・あれは精霊が寄り付かなくなっていたせいというのもあるのかも知れぬな。
精霊の加護持ち以外にとっては精霊が居ようが居まいがそれ程違いは無いと思っていたが、あの夏の酷さの原因が精霊が王都を避けていたからだとしたら、精霊の重要性というのは我々が思っている以上のものなのだろうな」
元々、精霊を怒らせるようなことを態とやるような愚か者はいないが・・・王家の人間や商業ギルドの上層部などが精霊を軽視するような行動を起こした際にしっかり脅して諫められるように、精霊が居ないとどのような弊害があるのか確認したほうが良いかもしれない。
アファル王国には無いが、他国には精霊を怒らせて見捨てられた地というのもあると聞く。
少し調べさせるか・・・。
ウィルには金一封プラス超高級レストランでの接待ランチ!
魔術院のお偉いさんも、ウィルの有用性に気が付いてそれとなく紐をつけようとしていますw