539 星暦555年 紫の月 21日 更新できる記録
「何か次の開発のアイディア、ある~?」
朝食の後にまったりとお茶を飲んでいたらシャルロが声をあげた。
そうだよな。
もうそろそろ新しい商品の開発に取り掛かるべきだろう。
パストン島での確認作業の後始末とか、どこぞの子爵夫婦の横領と離婚問題とか、結婚後の新居の手配とかで皆が色々とやることが有ったのだが、落ち着いてきたのでもうそろそろ本業に戻るべきだろう。
とは言え。
新しい商品ねぇ。
ああいうのって『こういうのがあったら便利だな』という思いが原動力になるんだけど、最近それ程困った思いはしてないからなぁ。
唯一げんなりしたのが魔術院での転移門の使用情報の確認というところか。
「絶対無理だと思うけどさぁ。
沢山ある記録を、1ページごとに調べなくても内容を検索できるような魔道具を作れたら便利だと思わないか?」
シャルロが俺の言葉を聞いて首を傾げた。
「内容を検索?
魔術院の魔術回路の特許の資料の中から欲しいのを探せるような感じにするの?」
魔術回路の特許のことは考えていなかったが、確かにそれが出来たら滅茶苦茶助かるよな。
まあ、ある意味探すのが大変すぎて手を出す人間が少ないからこそ俺たちが古い魔術回路を掘り出して改善することで儲けられているというのもあるのだが。
「資料の整理もだが、帳簿だって年末に全部の資料を一気にまとめるのではなく、毎月なり3か月ごとに集計を取って情報を更新出来たら事業がより効率的に出来るな。
検索とはまたちょっと違うが」
アレクが付け加える。
そうか。
情報を更新できないから探しにくいんだ。
まあ、転移門の使用状況の情報なんてどう更新すれば探しやすいのかちょっと不明だが、魔術特許の情報だったら最新の情報の目録とかが作れれば助かるだろう。
結局魔術特許って日々色々と申請されて増えていくから、既存の物の目録を作っても新しいのを足していけないから使い物にならないということで魔術院も最初から諦めちゃってるんだよね。
1項目ごとに目録のページを作ってそれを必要に応じて紙を足していく形式にすればいいんじゃないかとも思うのだが、『1行程度の目録の情報では内容が全く伝わらないから意味がない』とか以前司書の人が言っていた。
「つまり・・・情報をどんどん書き込める媒体が欲しいというところか。
ある意味俺たちが使っている黒板モドキを紙の形にしたような物があれば良いのか?」
あれは魔力で文字を消して修正できるので、魔力で消す範囲を細かく指定できるように工夫できれば比較的簡単に実用化できるかもしれない。
「定型が決まっている帳簿の情報の更新にはそれで良いだろうが、魔術回路の目録の更新に使うとしたら新しい回路の情報を既存の情報の間に差し込めるようにしないとならないぞ」
アレクが指摘した。
確かにそうだ。
ただ単に文字や数字を修正するだけだったら、今だって1、2回だったら紙を薄く削って書き直せば情報の更新が可能っちゃあ可能なんだ。
態々高い魔道具を使うほどの劇的な使い勝手の向上にはつながらない。
「記録用魔道具の機能を流用したら文字を写して、浮かせて、そのまま下に再投射することだって可能だと思うけど・・・ある程度以上やったらページからはみ出しちゃうよね」
シャルロがつぶやいた。
ふむ。
確かに記録用魔道具の機能を使って情報を映像として切り貼りし、間に新しい情報を差し込んで修正するような感じにすればいいかもしれない。
「目で確認する作業用の情報としてはそれでいいだろうが、情報を他者と共有する際に記録用の魔石を渡すことになるとしたら高くつきすぎるな。
しかも魔力で修正できてしまう情報では信頼性が皆無・・・とまでいかなくても、いわば部屋から出すたびに損なわれるに等しいぞ」
アレクが問題点を指摘し、眉をひそめて考え込んだ。
「情報の修正機能と、中身を見る機能とは別に分けたらどうだ?
本体の魔道具と魔石に情報を蓄積して修正していくにしても、外部の人間に見せる場合はそれこそ紙状にした黒板モドキに複写してそれを渡すことにすれば、本体の情報は安心だし使い勝手だっていいんじゃないか?」
机の上での作業に使うとしたらあの黒板モドキではちょっと嵩張るのでもう少し小さくする必要はあるが。
「なるほど。
それだったら複数の写しを作るのも楽になるし、良いかもしれないな」
アレクが深く頷いた。
国税局へ提出する資料とかの写しを作るのに一番作業負担が重かったのはアレクだったからな。
写しを簡単に作れる魔道具というだけでありがたいのかもしれない。
「それじゃあ、記録用魔道具と黒板モドキの改良が可能か、試してみようぜ」
ちょっとしたワープロかコンピュータの前身みたいな感じになりますかね?
コピー機モドキな使い方も可能になったらこれだけでも革新的かもw