533 星暦555年 紫の月 10日 重要な確認作業だよね(5)
ウィルの視点に戻ってます
「アレク~。
これに何が書いてあるのか、教えてくれ」
盗賊ギルドに行って愛人宅で見つけた金貨や宝石を長に渡し、愛人との別荘の場所の詳細を受け取って帰ってきた俺は作業場で何やら作業をしていたアレクを見つけて今日発見した書類と帳簿を渡した。
「なんだ、これ?」
「どこぞの子爵家に婿養子に入った商家の次男が、愛人との息子を子爵家の跡取りにしようとして愛人の存在だけでなく実家と子爵家両方から色々と横領していたことが発覚してね。
現在実家と子爵家の両方が隠し財産を調査中なんだけど、奥方側におまけとして雇われた。
発見した財産の3割5分が報酬になるから、1割払うんでよろしく~!」
傍にあった湯沸かし器に水を入れ、茶葉を棚から取り出しながらアレクに説明する。
「ああ。ガバルト商会の次男か」
既に離婚と横領騒動の話はそれなりに流れていたのか、アレクがあっさり婿養子の実家の名前を言った。
おお~。
悪評を嫌って、審議官を呼ばずに非公式にやっているって話だけどやはり商業ギルドでは話題になってるんだね。
まあ、お蔭で愛人との別荘に明日行っても泥棒と思われないで済むだろう。
もっとも別荘のある避暑地の方まで噂が流れているかは不明だが。
そう。
やはり婿養子は子爵家の別宅の傍に愛人との別荘を買っていたのだ。
・・・考えてみたら俺が訊ねるまで別荘の存在が発覚しなかったということは、既に発見されていた裏帳簿にこの別荘を買った資金の流れが出てきてなかったということかね?
そうなるとかなりの額の資金がこの『裏帳簿』から抜けていたことになる。
奥方が『もっとあるはず!』と主張したのも当然かも。
見つかっても構わない囮用の裏帳簿だったとか?
そんなものを準備しておくぐらい用心深いんだったら、自分の息子を跡取りになんて言う馬鹿な提案をしなければ全て発覚しないで済んだかもしれないのに。
自分の血を引く子供という話になると、エゴが絡んできて判断が狂うのかね?
俺が子供を持つことになるかは不明だが、子供が絡むと判断が狂うかもしれないという教訓として覚えておくことにしよう。
「こちらの書類は投資の権利書だな。
ほおう、この合弁会社に出資していたとは、ガバルト家の次男は噂通りに目利き力はなかなかのものだったようだな。
こちらは・・・船の権利書だ。
アリスティア号は南回りの航路でかなり儲けていた船だから、東大陸への新規航路が発見されてどうなったかは知らないが・・・それなりに抜け目のない方向転換をした可能性が高いだろうな。
後は・・・凄いな、ザルガ共和国での事業免許証まであるじゃないか」
バラの書類の方に先に目を通しながらアレクが解説してくれた。
へぇ~。
船を丸まる所有できるほど金があったんだ。
確かにあの愛人宅にも宝石やら金貨やらが沢山あったが、大型の交易船となれば儲けは大きいが初期投資も大きい。
そんなものまで隠し持っていたとは凄いね。
事業免許証がどう凄いのかは分からないが。
「事業免許証って?」
「船を持っていれば、アファル王国以外を拠点にして事業が出来る。
だが外国資本に対する規制が厳しい国が多いから、通常は本国を拠点とするのが一番なんだよ。
その点ザルガ共和国は事業免許証さえあれば規制や課税の面で殆ど現地の商会と同じレベルで事業が出来るから、外国人にとっては事業を移転しやすい場所なんだ。
ただし、事業免許証がべらぼうに高いから気軽に入手できるものではないのだがな」
アレクが裏帳簿の方を手に取りながら説明してくれた。
へぇぇ。
つまり、船があって事業免許証があったということは、最悪の場合はアファル王国を抜け出してザルガ共和国に拠点を移すつもりだったのか。
高々不倫と横領なのに、随分と大がかりだなぁ。
この婿子爵ってよく旅行とかに出ていたのかね?
愛人宅に入り浸ろうと思ったらそれなりに留守にすることが多かっただろうが、ザルガ共和国にも拠点を持っているのだとしたら更に出ずっぱりになりそうだ。
まあ、戦時中以外は金さえ払えば転移門を使って日帰りで他国にだって行けるが。
後で魔術院に行って転移門の使用記録も確認しておくか。
婿養子氏はかなりの財産を横領しまくっていた様子
しかも発覚に備えて他国に資産の分散化までしていたという用意周到さは凄いかもw