530 星暦555年 紫の月 10日 重要な確認作業だよね(2)
じゃあ、まずは愛人宅かな?
子爵家を継いだと言っても婿養子だ。
子爵邸は奥方の実家に忠実な使用人が多いだろうから、横領して子爵家の財産を盗んでいるんだったらその証拠を掃除の最中に発見されかねない子爵邸に隠しているとは考えにくい。
まあ、使用人を片っ端から辞めさせて自分が選んだ人間で入れ替えて完全掌握している可能性も無きにしも非ずだが、長の話からするとそういう雰囲気ではなさそうだ。
「愛人宅はどこにあるんです?
というか、まず根本的な話として、夜中に忍び込んで調べる必要があるんですか、それとも堂々と『奥様に依頼されました』と家を訪れて良いんですか?」
実体験は勿論ないが、離婚の準備というのは秘密裏に行って証拠を全部抑えてからガツンと相手と対峙するのが基本戦略だと聞く。
もっとも、既に横領の証拠が見つかったのだったらそれが『ガツン』の部分になっている可能性もある。
こちらとしては夜中に忍び込まないで済む方が楽なんだけど。
最近は規則正しい生活をしているから、夜更かしは疲れるんだよなぁ。
「婿養子と愛人、及びその息子は子爵家の別邸に隔離されて実質軟禁状態になっているそうだ。好きなだけ愛人宅を調べて良いぞ」
長がにやりと笑いながら答えた。
マジ??
「軟禁状態とは、凄い。
旦那の実家の商会が文句を言いそうなものだけど。
事業の方だってそれなりに指示しなければならないことが有るだろうに」
「なんとその婿養子、自分の実家の方の商会から出資させた投資の金も横領していたんだよ。
お蔭でどっちの金がどれだけ横領されたかを調べるのに子爵家も商会も大忙しというところだ。
愛人宅は両家の使用人が共同で資産の査定とリストアップをしているところらしい。
流石に子爵邸は共同管理という訳にはいかないが、それでも商会の人間が情報共有の為に滞在しているんだと」
書類をこちらに手渡しながら長が答えた。
凄いねぇ。
妻の実家だけでなく、自分の実家からも盗むとは。
よっぽど上手くやっていて、絶対に見つからない自信があったんだろうな。
渡された資料は愛人宅の場所と、現時点で見つかっている財産の一覧表だった。
それなりに多い。
それでも『もっとあるはず』と奥方に確信されるなんて、一体どれだけ金持ちな子爵家だったんだ?
「ちなみに、愛人用の別荘みたいのは?
実質その愛人が『本妻』で子爵の奥方がただの『金蔓』なのだとしたら、愛人と『本宅』だけでなく『別荘』を避暑地にでも持っていてもおかしくないのでは?」
ここまで周りの人間をコケにするだけの傲慢さを持つ男なのだ。
子爵家の避暑地の別宅の傍に愛人との別荘を持って、子爵家の妻と別宅に行った時に愛人と別荘でお楽しみになっていても不思議ではない。
長がちょっと意表を突かれたような顔を見せた。
「そこまでやるか?
・・・まあ、やるかもな。
愛人の方も、『お前が本当の妻だ』と言われていたらしいから、避暑地に別荘を求めても不思議はない。
探しておくよ」
取り敢えず、愛人宅だな。
一通り調べて、報告に来た際に別荘について情報を貰えば良いや。
◆◆◆◆
問題の愛人宅はなかなか良い住宅地にあった。
そこそこ大きな商会の人間が住むような、貴族でない一般人にとっての上流住宅地だ。
貴族は貴族で別な地域に上流とその他とに分かれる。ここら辺は下流貴族よりも金を持つ商家が住む、ある意味ちょっと微妙な地域だ。
貴族の資金力と権力は必ずしも一致していない。金を持っているからと貧乏な貴族を馬鹿にして痛い目にあう商家の人間はそこそこいる。
家に金をかけられないような貧乏貴族だって、横で商家の人間の金にあふれた生活を見るのは不愉快だろう。
なので、金持ちの商家と貧乏な貴族は基本的に同じ場所には住まないのだ。
お蔭で今回の婿養子の子爵は妻に気づかれることなく愛人との家庭を同じ王都の中で築くことが出来たという訳だ。
子爵家に出入りするような商会も多分このような上流住宅地には住んでいないだろうし、当然のことながら子爵家で働く使用人はこんな上級住宅地には住めない。
つまり、子爵家に関係する人間で、ここに出入りしている婿子爵を見かけるような人物はいないのだ。
・・・考えてみると、こんなところに愛人を囲えるほどの資金を持つなんて、根性は腐っているにしてもこの婿子爵は金儲けの才能はそこそこあったのかな?
上手く金を横領する詐欺師の才能かも知れないが。
婿子爵の才能に関して考えながら、愛人宅の品の良い扉をノックした。
自分でカギを開ける方が早い位だが、中で婿子爵の実家と妻の実家の人間が共同管理しているのだったら変な行動は見せずにいたほうが良いだろう。
さ~て。
どれだけ資産が見つかるかな?
4割だから、いいモノが見つかったらシェイラに何か買ってあげても良いかも。
人間性に問題がありまくりですが、この婿子爵さんも金儲けの才能はかなりあったみたいですw